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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第11章 海に映る星と月
慌ただしい厨房の中…楓はふと、傍らの暁を垣間見た。
暁はとてもよく働いた。
皿洗いや盛り付けや注文取り、空いた皿を下げたり客の会計など言わなくても自分から動き、大変手際が良かった。
貴族の子弟など初めて見た楓には、暁の腰の低い気働きが信じらないほどであった。
…貴族のお坊ちゃまはもっと取り澄まして冷たいもんやと思うていたわ…。
また、改めて思うのは暁の浮世離れした美しさであった。
遥か昔、息子の森を東京の屋敷で執事見習いとして雇いたいと眼を掛けてくれた北白川伯爵を見た時も、その日本人離れした彫像のような美貌に息を飲んだものだ。
しかし暁の美しさはまた種類の違うなんとも表現し難い耽美的な常人離れした美貌なのであった。
常連客の一人が会計をする暁にうっとりと話しかけた。
「あんた、ほんまに綺麗やなあ…。ほんまに男なんか?…なんか…あんたを見てるとドキドキして飯がよう喉通らんかったわ」
暁はにっこりと笑いかけた。
「ありがとうございます。またぜひお越しくださいね」
常連客の男は暁の笑顔を見て少年のように貌を赤らめ、俯いてしまった。

森は厨房で鰈の煮付けを皿によそいながら、暁を見ていた。
その瞳は優しく穏やかで、楓が見たことがないような表情をしていた。

森は幼い頃から喜怒哀楽を殆ど表に出さない子どもであった。
下の二人と異なり、博打打ちの父親が家を出てゆき、辛酸を舐めた経験を覚えている森は、とても我慢強く我儘を言ったことがなかった。
常に母を手助けし、幼い弟妹の面倒を見て、中学を卒業すると黙々と働いた。
本当は母に甘えたかっただろうに…泣き言一つ言わない森を楓は切なく申し訳なく思っていた。

東京の伯爵家に働きに出てからは森の仕送りがあったから暮らしが楽になり、泉や凛は学校に行くことが出来たのだ。
森がいなかったらどうなっていたか分からない。
楓は森に心から感謝している。
しかし森は淡々とした態度のままだ。
決して冷たい訳ではないが甘えたり我儘を言うことはもはやない。
怜悧に整った貌は、母親の楓ですら近寄り難いものがあった。
…この子は無邪気な子ども時代を味わうことなく大人になってしもうたんやな…。
…と、切ない気持ちを森に抱いていた。

だからこそ、昨夜のあの別人のように情熱的な息子の眼差しと言葉に、楓は驚いたのだ。


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