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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
泉は25分後にダイニングに現れた。
白いシャツと黒いスラックス、濃紺色のネクタイが背が高くスタイルが良い身体に良く似合っている。
貌は月城が二十歳位の時はこうだったのでは…と想像させるような端正な美しい顔立ちだ。
泉は若い分、甘さが勝っているのも魅力的であった。
暁は一瞬、見惚れる。
…月城に…本当に良く似ている。
先ほど、揶揄われたことも忘れ、純粋に彼の美貌に感動する。

…兄、礼也は美しいものが好きだ。
下僕も身長が高く、容姿端麗な者を好む。
来賓に直接接待する下僕は、家の格や品位にも繋がるからだ。

…これなら上手く行くかも知れない…。
暁はほっとした。

「さあ、掛けて。家政婦さんに急遽、二人分用意して貰った。…お腹が空いているだろう?」
暁が、優しく声を掛ける。

…どこまでおめでたいお坊ちゃんなんだ。
泉は半ば呆れた。
…さっき俺はあんなに酷いことを言ったり、ちょっかいを出したのに…。

暁は品の良い濃紺のスーツ姿だ。
ネクタイは臙脂色のレジメンタルタイ。
…若々しい美貌が相まって社会人と言うより、裕福な私学の学生のようだ。

思わず、うっとりと見惚れそうになる自分を戒める。
…こいつは兄貴を誑かしたかもしれないんだ。
気を許してはいけない。

朝食は炊き立ての白米、なめこと豆腐とわかめの味噌汁、鰆の西京焼き、出汁巻き卵、ほうれん草のお浸し、野沢菜漬け…と、和食だった。

泉は若者らしく旺盛な食欲を見せる。
暁は嬉しそうにそれを眺めつつ、自分も箸を取る。
「美味い!こんな美味い料理、初めて食べた!」
素直に声を上げる泉に、お代わりのご飯を持って来た家政婦の糸が微笑む。
「沢山召し上がって下さいね。暁様が、きっと和食が喜ばれると仰って整えたのですよ…」
「…え…?」
泉は驚いて、箸を止める。
暁はさらりと説明する。
「…僕も縣の家に引き取られた時に、最初に出た食事が和食でほっとしたんだ。…もっとも僕は和食でもあんなご馳走は生まれて初めて食べたけれどね…」
泉は眉を顰める。
「どういう意味だよ?」

暁はふっと美しい微笑みを浮かべた。
「…僕は縣家の正式な子供ではない。…14歳の時に、腹違いの兄に引き取られた。…それまでは貧しい長屋暮らしだった。…だから白米なんて滅多に食べられなかったよ。…こんな食事は夢にも描けなかった…」
泉は驚きの余り声を失った。


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