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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
…月城はペンを置き、静かにため息を吐く。
あれから数日、未だに暁に会えずにいる。
暁はまだ帰宅していないらしい。
今朝の電話でも、家政婦のいとが心配そうにそう報告してきた。
恐らくは松濤の屋敷に居続けているのだろう。
あそこには、暁を溺愛してやまない兄、礼也がいる。

…今ならわかる。
暁の言葉は全て、月城の不在から来る寂しさによるものだったのだ。
不遇な少年時代を過ごした暁は、一人きりにされることに病的に恐怖する。
それを知りながら多忙にかまけ、彼を孤独にしてしまった。
梨央の方を優先したように思わせてしまったのも自分の落ち度だ。
それらを全て詫びたい。
詫びて、抱きしめたい。

…しかし…。
暁の言うように、自分は暁を理解できているのだろうか…。
孤独な暁の魂をまるごと抱きしめ、彼を包み込み、安心させることが出来るのだろうか…。
暁の言葉通り、大紋の方が彼を理解しているのではないだろうか…。
またしても大紋への劣等感と自尊心の狭間で、月城は揺れ続けていたのだ。

…物思いに耽る月城の耳に、軽やかなノックの音が響いた。

「…はい…」
振り返る月城の眼の前に現れたのは…大紋春馬、そのひとであった。
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