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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
胸の中の靄は、不思議なほどにいつのまにか晴れていた。
月城は感謝を込めて告げる。
「ありがとうございます。近々暁様にお会いして、仲直りいたします」
大紋は頷き、やや芝居掛かって眉を上げて見せた。
「やれやれ、月下氷人もなかなか苦労するな。
…では僕は失礼するよ」
しなやかに部屋を出ようとするその一繋ぎの動作で、彼はふと執務室の壁に貼られた1枚の写真に眼を遣った。

「…これは、此間のお茶会の写真かな?」
月城も同じように写真に眼を遣り、ああ…と微笑む。
「はい。大紋様ご夫妻もお招きしたのですが、奥様がお風邪を引かれてご欠席されたのでしたね」
興味深そうに写真を眺めながら大紋は呟く。
「そう。絢子がとても残念がっていたよ。綾香さんのお歌をお聴きしたかったと…。
…へえ…使用人達も写っているのだね」
「はい。綾香様は音楽サロンに使用人達の鑑賞も許可なさっておりますので、その際に写真技師を招き記念写真を撮ったものです」

つい先日、その写真技師から届けられた写真を家政婦が気を利かせて執務室の壁に貼ったらしい。
…写真には暁も写っているからだ…。
「次回は是非お越しください。楽しみにお待ち…」
和やかに話しかける月城の言葉を遮るように、大紋の緊迫した声が飛んだ。
「月城…!…彼は…この者の名前は…⁈」
大紋の様子に訝しみながら、彼が指差す者の貌を見つめる。
…その指先には、下僕の藍染が微笑んでいた。
「…この者は、最近雇ったばかりの下僕の藍染です」
「藍染…?」
大紋の知的な瞳が鋭く光った。
「はい。藍染涼です。…彼が何か…?」
大紋は厳しい視線のまま首を巡らし、月城を見た。
「…いや、彼は藍染などではない。彼は藍川涼一郎だ。
…なぜそんな偽名を使って…ここで働いているのだ…」
自分に問いかけるように、大紋は呟いた。
その緊迫した様子は、月城が初めて見る表情であった。
正体の分からない不安が月城にも広がる。
「…大紋様、なぜ藍染をご存知なのですか?」
大紋は穴が空くほど凝視していた写真からゆっくり眼を離すと、月城を見た。
「…藍染は…いや、藍川涼一郎は私が去年弁護人をした被告だ」
穏やかではない言葉に、月城の端正な眉が顰められる。
「…被告…?」

大紋の瞳が懐疑的に眇められながら、再び写真を見つめる。
「そうだ。…彼は…殺人罪で起訴されていたのだ」

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