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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「…暁様、暁様…お気がつかれましたか?」
…まだ朦朧とする意識の中、遠くで自分を呼ぶ声が聞こえる。
…誰…?僕を呼ぶのは…。
月城…?
「…つき…しろ…」
「…違いますよ。僕です…。ほら…僕の貌をよく見て下さい…」
間近に貌を覗き込まれる。
…君は…誰…?

整った貌立ちだが月城ではない…。
ぼんやりした意識のまま、考える…。
…このひとは…
「…藍…染くん…?」
掠れた声が暁の口から発せられると、男は嬉しげに貌を綻ばせた。
「そうですよ、藍染です。暁様」
「…僕は…どうしたんだ…?…ここは…どこだ…?」
…なぜ僕は藍染といるのだろう…。
定まらない意識の中、ふと辺りを見渡す。

薄暗い室内…窓は…ないようだ…。
かろうじて小さなランプが仄かに辺りを照らしていた。
…自分が寝かされているのは…白く広い寝台…
起き上がろうとしたが、何かに引っ張られる。
…手の…自由が効かない…?
暁の手は、鉄製の寝台の柱に柔らかな紅絹で縛られていたのだ。

暁の意識が、目紛しく覚醒し出す。
霧の向こう…教会での出来事がまざまざと蘇る。
…いきなり藍染に抱きすくめられ…強い薬品の匂いがする布を嗅がされた…それから…⁈

暁は恐怖に総毛立ちながら、叫ぶ。
「君は…!僕に何をしたんだ…⁈」
藍染はにこやかに笑いかけながら、暁の白磁のような頬を撫で回した。
「…少し眠って頂いただけです。…それから二人きりになりたかったから、僕らのこの家にお連れして…貴方に一番似合う格好に着替えていただきましたよ」
「…僕ら…?…君は何を言っているんだ…?」
…ふと自分の姿を見下ろす。

暁は眼を疑った。
真紅の婀娜めいた絹の肌襦袢一枚…。
まるで遊女が纏うような淫らな肌襦袢…。
それが暁が身に纏っている全てであった。
「…な、なぜこんな格好を…⁈
なぜこんなことをするんだ⁈君は…一体⁈」
震える声で尋ねる暁に、藍染は人の良い柔らかな微笑のまま答える。
温かな指で、暁の艶やかな黒髪を愛おしげに梳き上げた。
そうして、唄うように囁いた。
「…だって…君に一番似合う格好だからさ…。
ねえ、染乃…。
…やっと…僕のところに戻って来てくれたんだね、染乃…」

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