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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「…も…だめ…堪忍して…」
染乃は息も絶え絶えに極めすぎた悦楽からくる苦痛を訴える。
「…だめだよ、染乃…。もう一度だ…。さあ、脚を開いて…」
青年はその細身だが引き締まった体躯がうっすらと汗ばんだくらいで、大して息も乱してはいない。

置屋からほど近い連れ込み茶屋に引き摺り込まれ、あとは若い野獣のように身体を奪われた。
藍川は恐ろしいほどに染乃の身体を知り尽くしていた。
口惜しい程に快楽を極めさせられ、鑑みる。
…いつの間にこのひとはこんなに色事が長けたのだろうか…。
ついこの間までは私が手を握りしめるだけで、赤くなっていたのに…。
…私がくちづけから教えてやったのに…と憎らしくなり、すっかり化粧が落ちた透き通るような素顔の目元で睨んでやる。

藍川は嬉しそうに笑った。
「…だめだよ、染乃。そんなに可愛く睨んだって…。
君は僕を捨てようとしたんだから…。悪い子はお仕置きを受けなくっちゃね…」
青年の手から尚も逃げようとする染乃の身体をいとも簡単に繋ぎ止める。
身体を重ねられ、藍川の引き締まった長い脚が差し込まれる。

「…ああっ…!…」
脚を開かれた弾みに、花陰の奥底に放たれた男の精が滴り落ちた。
染乃は形の良い花のような唇を噛み締めた。
…今日は海軍士官の宴席で、踊りを踊るだけの仕事だったので、避妊具は何も携えて来なかったのだ。
妊娠の危惧から染乃は憂鬱になった。

青年は染乃の白磁のように白くきめ細かな太腿の内側をなぞり、自分の牡液を指に絡めた。
「…たくさん出したから、飲み込み切れずに出てきてしまったね。…もったいない…」
藍川の端整な貌が哀しげに曇った。
それを見ると、不思議に己れは悪いことをしたのではないかという罪悪感が生まれる。
「…君が孕めば、僕達の仲を父さんや母さんも許してくれるかも知れないよ」
腰を抱かれ、耳元で熱く淫靡に囁かれる。
「…そんな…何を仰います…」
あの息子を溺愛している母親が芸者の子どもなど認めるはずはないのに…。
染乃は仕方なく甘えた口調で懇願する。
「…坊ちゃん、悪いことは言わないから、もうあたしを解放しておくんなまし…。
あたしと坊ちゃんは身分違いなんです。一緒にはなれない運命…」
藍川の節高い綺麗な指が染乃の唇を塞ぐ。
「僕は染乃と一緒になれないなら死ぬよ。君を愛しているから…。君と死ねるなら本望なんだ」





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