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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
染乃の胸が甘く疼いた。
…藍川は、染乃がかつて住んでいた新潟の貧村にいた幼馴染によく似ていた。
二つ年上の彼は、染乃が十歳の春に人買いに買われ村を出る時、泣きながら峠まで見送りに来てくれた。
「俺が大きゅうなったら、うんと偉くなってお染を迎えに行くからな!絶対迎えに行くからな!それまで辛抱して待っとれよ!」
…そう叫んでくれたあの少年の名前ももう思い出せないのに、面差しはよく覚えているのだ。

…彼はどうしているのだろう…。
あの貧しい寒村で、身を粉にして働いているのだろうか…。
…それとも、本当にあたしを探しに東京まで来てくれたのだろうか…。

貧村のご多聞に漏れず口減らしで人買いに売られ、染乃は吉原の置屋の下地っ子として雇われた。
「運が良かったなあ。おめえは大層器量良しだから、こんな綺麗な置屋に置いて貰えて、綺麗なおべべを着せて貰えて、白いおまんまを毎日食えるんだからなあ。
…昨日売られた別の子は、燐寸工場の下働きだよ。
可哀想に毎日ススだらけで傷だらけだ。
おめえ、母ちゃんと父ちゃんに感謝するんだぞ?」
中年男の人買いは嫌らしい目で染乃をじろじろ見ると汚らしい手で染乃の頬を撫で回し、未練たらしく帰っていった。

…運がいい?
果たしてそうなのだろうか。
確かに染乃は吉原一の美貌と謳われ、置屋でも特別扱いされた。
「あんたはこの白鷺屋の秘蔵っ子なんだからね。安い客やしみったれた客は寄せ付けないようにしてやったんだ。だからせいぜいお大尽の旦那に可愛がってもらうんだよ」
置屋の女将は狐のような目付きで、いつも冷たく笑って染乃を見た。
嘗ては美人芸者と評判だった女将は、染乃の美貌と若さを妬んでいたのかもしれない。
十五で水揚げされてからも、贔屓の旦那たちは途切れることはなかった。
女将は染乃を最高値を付けて売りつけようと、更に上客が付くのを手ぐすねを引いて待っていたのだ。

…そして、その男は現れた。
四国の海運王…。
彼は札束を山のように積んで女将に見せつけたのだ。
年は六十にもなる老人だ。
その老人に来年の春、染乃は妾として身請けされ、松山に連れてゆかれることになっていた。

染乃はゆっくりと起き上がり、藍川の美しい貌をそっと撫でた。
澄んだ眼差しが染乃を真摯に見つめる。
…綺麗なひと…。
どんなに荒々しくあたしを抱いても穢れない…綺麗な綺麗なひと…。



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