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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
礼也は、書斎の大きな机の上に置かれた目の前の青年の履歴書に眼を走らせる。
「…18で上京してから伊勢谷子爵家の下僕から黒田公爵家の下僕か…。二年で2つの職場を辞めているのはいささか多くはないか?」
目の前の椅子に座る青年…月城泉は、特に慌てる様子もなく、堂々とした態度で答えた。
「多いと仰るのなら多いかも知れません。…自分では他人と比較出来ないので、なんとも言えません」
礼也は片眉を上げた。
…兄の月城に恐ろしく良く似た美貌だ。
最初、暁とこの部屋に入って来た時は、月城が来たのかと思ったほどだ。
良く見ると月城の怜悧な眼差しや、ひやりとしたオーラや落ち着いた品位は彼にはなく、賢そうではあるが、荒削りな血気盛んな青年という印象が濃く残るものだった。
顔立ちも月城より甘やかな美貌で…女性が夢中になりそうな野性的なフェロモンを撒き散らしていた。
…容姿は似てはいるが、兄とは全く違う性質らしいな。
礼也は面白いものを見るように眼を細める。
泉の隣の椅子に座る暁が、冷や冷やしながら泉の受け答えを見守っているのも興味深かった。
「…黒田公爵家は、彼の所為で辞めさせられたのではありません。…夫人に迫られて、それを公爵に見られて暇を出されたのです。…黒田夫人ならあり得ることです。
…僕も夜会で危うく小部屋に連れ込まれそうになりましたから…」
一生懸命彼を弁護する様子もいじらしい。
…月城の弟をなんとかここで働かせたいのだな…。
礼也は暁の気持ちを愛おしく思う。
…もっとも、それは月城の為なのだと思うと、少し面白くはないが…。
「ああ、確かに。あの夫人の色好みには困ったものだな。…暁も危なく餌食になるところだったな」
礼也は形の良い唇を歪め、不愉快そうな貌をした。
18歳で、まだ夜会慣れしていない暁を色仕掛けで迫ろうとした黒田夫人を、礼也は未だに苦々しく思っていた。
あまつさえ、その後に黒田公爵も暁にしつこく迫っていた事が分かった。
礼也は怒りの余り、それ以降の黒田家の夜会は一切欠席を押し通していたほどだ。
「…18で上京してから伊勢谷子爵家の下僕から黒田公爵家の下僕か…。二年で2つの職場を辞めているのはいささか多くはないか?」
目の前の椅子に座る青年…月城泉は、特に慌てる様子もなく、堂々とした態度で答えた。
「多いと仰るのなら多いかも知れません。…自分では他人と比較出来ないので、なんとも言えません」
礼也は片眉を上げた。
…兄の月城に恐ろしく良く似た美貌だ。
最初、暁とこの部屋に入って来た時は、月城が来たのかと思ったほどだ。
良く見ると月城の怜悧な眼差しや、ひやりとしたオーラや落ち着いた品位は彼にはなく、賢そうではあるが、荒削りな血気盛んな青年という印象が濃く残るものだった。
顔立ちも月城より甘やかな美貌で…女性が夢中になりそうな野性的なフェロモンを撒き散らしていた。
…容姿は似てはいるが、兄とは全く違う性質らしいな。
礼也は面白いものを見るように眼を細める。
泉の隣の椅子に座る暁が、冷や冷やしながら泉の受け答えを見守っているのも興味深かった。
「…黒田公爵家は、彼の所為で辞めさせられたのではありません。…夫人に迫られて、それを公爵に見られて暇を出されたのです。…黒田夫人ならあり得ることです。
…僕も夜会で危うく小部屋に連れ込まれそうになりましたから…」
一生懸命彼を弁護する様子もいじらしい。
…月城の弟をなんとかここで働かせたいのだな…。
礼也は暁の気持ちを愛おしく思う。
…もっとも、それは月城の為なのだと思うと、少し面白くはないが…。
「ああ、確かに。あの夫人の色好みには困ったものだな。…暁も危なく餌食になるところだったな」
礼也は形の良い唇を歪め、不愉快そうな貌をした。
18歳で、まだ夜会慣れしていない暁を色仕掛けで迫ろうとした黒田夫人を、礼也は未だに苦々しく思っていた。
あまつさえ、その後に黒田公爵も暁にしつこく迫っていた事が分かった。
礼也は怒りの余り、それ以降の黒田家の夜会は一切欠席を押し通していたほどだ。