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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
礼也は両手を前に組み、泉に尋ねる。
「黒田家をクビになったのは、理解できた。…私もあの夫妻には辟易しているのでね。…では、伊勢谷子爵家はなぜ、辞めたのだ?」
泉の貌に初めて動揺が走った。
暫く沈黙した後、端正な唇を引き締め低い声で答えた。
「…答えたくありません」
暁がはっとしたように眼を見開き、泉の袖を引く。
「泉くん!」
「…申し訳ありませんが、答えたくありません。…この質問に答えることは、ある方を傷付けることになるからです」
礼也は眼を眇めて泉を見る。
「…ほう…」
そして、泉を試すようにゆっくりと尋ねた。
「…もし、君が答えなかったらこの話はなくなるとしても…かな?」
「兄さん!」
庇おうとする暁を押しとどめ、泉が答える。
「そうなっても、仕方ないです」
「泉くん!」
泉は真っ直ぐに礼也を見つめ、答えた。
「俺は正直、ここで働きたいです。でも、その為にある方を傷付けることは出来ません」
暁は落胆の溜息を吐いた。
「…泉くん…」

突然、礼也が愉快そうに笑いだした。
そして、しみじみとした口調で語り始めた。
「…そういう気骨があるところは、君の兄さんにそっくりだな」
暁は眼を見張る。
「君の兄さんは優秀な執事だ。…それは、技術や知識だけではない。…彼は執事の資質として一番大切な矜持を持っているからだ。貴族に仕える執事は、高い矜持を持たなくてはならない。矜持はその家の主人、そして本人の為にあるのだ。貴い矜持が主人と本人を輝かせる。
…どうやら、君にはそれがあるようだ」
礼也は立ち上がり、温かく笑った。
「…採用だ。…詳しい話は、生田としなさい」
暁が立ち上がり、礼也に駆け寄り抱きついた。
「兄さん!ありがとうございます!」
礼也は暁を優しく抱きとめながらも、苦笑いする。
「おいおい、別に私はお前の為に彼を雇った訳じゃないぞ」
「…分かっています。でも…ありがとうございます!」
しがみ付いて離れない暁を礼也は愛しげに抱き返し、髪を優しく掻き混ぜた。

…その美しい光景を泉は、瞬きをするのも忘れて見惚れていた。
異母兄弟だという二人…
しかし、二人には愛という絆しか見えなかった。

それはきっと、暁の兄を愛する無垢な心と、礼也の彼を包み込む無償の優しさがそうさせたのだろう。

泉は暁のことを、美しいと素直に思った。
そんな自分にひどく驚いたのだった。



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