この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「…染乃…」
綺麗な若い男は声まで美しい。
染乃は四国の海運王の嗄れた濁声を思い出す。
「…坊ちゃんは、あたしがそんなに好き?」
艶めいた瞳で笑って尋ねると、藍川は痛いほどに染乃の手を握りしめた。
「好きだよ。大好きだ。愛しているよ、染乃」
美しい詩を暗唱するように、青年は繰り返す。
藍川の肌は女の肌のように綺麗で、その手はもちろんあかぎれひとつ傷ひとつない。
…日本橋の老舗呉服店の若旦那…一高から帝大へ進学した優等生、見目麗しく賢く、たくさんの使用人に傅かれ両親に愛されて育った苦労知らずの若者…。
数日前、自分を泥棒猫を見るような眼で睨みつけた母親の貌が浮かぶ…。
…あの母親は、あたしがこの若旦那と心中したら一体どんな貌をするんだろう…。
身も心も綺麗な息子が、吉原の穢れた芸者と死んだら…。
きっと半狂乱になって憤るに違いない。
その光景を思い浮かべると、染乃は愉快な気持ちが温泉の源泉のように湧き上がってくるのを止めることが出来なかった。
紅が落ちても尚紅い染乃の唇が柔らかく開いた。
「…あたしも涼一郎さんが好き…。愛しています…坊ちゃん…」
初めて愛を告げてくれた染乃を藍川は感極まったように強く掻き抱く。
「染乃!」
滑らかな若い男の肌に触れ、哀調を込めて囁いた。
「…だから…あたしと一緒に死んでください…」
綺麗な若い男は声まで美しい。
染乃は四国の海運王の嗄れた濁声を思い出す。
「…坊ちゃんは、あたしがそんなに好き?」
艶めいた瞳で笑って尋ねると、藍川は痛いほどに染乃の手を握りしめた。
「好きだよ。大好きだ。愛しているよ、染乃」
美しい詩を暗唱するように、青年は繰り返す。
藍川の肌は女の肌のように綺麗で、その手はもちろんあかぎれひとつ傷ひとつない。
…日本橋の老舗呉服店の若旦那…一高から帝大へ進学した優等生、見目麗しく賢く、たくさんの使用人に傅かれ両親に愛されて育った苦労知らずの若者…。
数日前、自分を泥棒猫を見るような眼で睨みつけた母親の貌が浮かぶ…。
…あの母親は、あたしがこの若旦那と心中したら一体どんな貌をするんだろう…。
身も心も綺麗な息子が、吉原の穢れた芸者と死んだら…。
きっと半狂乱になって憤るに違いない。
その光景を思い浮かべると、染乃は愉快な気持ちが温泉の源泉のように湧き上がってくるのを止めることが出来なかった。
紅が落ちても尚紅い染乃の唇が柔らかく開いた。
「…あたしも涼一郎さんが好き…。愛しています…坊ちゃん…」
初めて愛を告げてくれた染乃を藍川は感極まったように強く掻き抱く。
「染乃!」
滑らかな若い男の肌に触れ、哀調を込めて囁いた。
「…だから…あたしと一緒に死んでください…」