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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
白く華奢な肩から緋色の襦袢を滑り落とす。
代わりに身に纏うのは白絹の襦袢だ。

…最後くらいこの清潔な青年に相応しい姿で死にたい。
襟元をきちんと合わせ、着付けを終える。
翡翠の簪をそっと外して、彼の手に握らせた。

…字もろくに書けないあたしは、坊ちゃんに書き置きもできないから…。

翡翠の簪は、水揚げした時に初めて置屋の女将から受け取ったご祝儀を叩いて買ったものだ。
大層高価なそれは
「まだ半玉の癖に生意気だねえ。あんたみたいな小娘は安い珊瑚で充分さね」
と、姐さん芸者たちに嫌味を言われた。
けれど染乃は、その翡翠の簪を着け続けた。

行商人が持ってくる絵物語を、染乃は小遣いを貯めて買い漁っていた。
字がほとんど読めない染乃には、ほぼ挿絵で出来ているその本が唯一読める本だったからだ。

その絵物語に西洋のお姫様が身につける翡翠の耳飾りの絵があった。
その大層美しいお姫様は、舞踏会で凛々しい王子様と出会い、恋に落ち結ばれるという他愛のない安っぽい物語だった。
しかし染乃はその絵物語を繰り返し繰り返し擦り切れるまで読んだ。
舞踏会の場面ではお姫様は翡翠の耳飾りを揺らめかせながら王子様と踊っていて、うっとりしながら眺めていたものだ。
…やがて大人の女になり、多くの旦那衆に抱かれるようになってからは、もうその絵物語を読み返すこともなくなったが、翡翠の簪だけはずっと大切にし続けていたのだ。

…あたしの夢はこの翡翠の簪に込められているのだ。
青年が目覚めて、自分の死を確認し…この簪を見て泣くことを思い浮かべると、震えるような愉悦に浸れる。

染乃は次第に身体を包み込む気だるい睡魔に抗うように、藍川の胸元に顔を擦り付ける。
身嗜みの良い青年の胸元からは、こんな時でも白檀の香りがした。

「…さよなら、坊ちゃん…。
あたしのことを、生涯忘れないでね…いつまでも覚えていて…」
…染乃は微笑みながらそのまま瞼を閉じ、そうして二度と目覚めることのない夢の中へと入っていったのだった。

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