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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
…それからあっという間に話しは進み…今、藍川は横浜の外国航路への埠頭にいる。
目の前の巨大な外国客船…。
既に多くの乗客で賑わう甲板…。
次々にタラップから船内へと乗り込む乗客達…。
あれに乗れば、藍川はフランスに着く。
大紋の言葉に特に抗わずに渡仏を決めたのは、ほかに何の展望もなかったからだ。
暁を監禁した事件は、両親だけには知らされた。
両親はすっかり藍川を腫れ物に触れるように扱いだした。
無理からぬことだ。
芸者と心中事件を起こし警察に捕まった二年後に、男爵家の令息を拉致監禁する事件を起こしたのだ。
両親は失神するほど狼狽した。
被害者の暁の温情を大紋から聞かされ、また前回に引き続き、大紋が藍川を精神的に支援してくれることになり、両親はすっかり大紋を頼り切るようなった。
「涼一郎くんには絵の才能があります。
ぜひ、それをフランスで開花させてあげてください。
それに…環境を変えることは何より彼のためになります」
鶴の一声だった。
フランス行きが決まり、両親がほっとしたのが手に取るように分かった。
藍川の将来を考えての判断もあるだろうが、このまま日本にいてまた大事件を起こされ、店の暖簾を穢されるのを恐れたのだろう。
藍川はふっと寂しげに笑った。
涙ながらに見送りに来ようとする母親を、藍川は拒んだ。
母親の泣き顔をこれ以上見たくなかったのだ。
…気の早い乗客が、見送りの者に紙テープを投げ出した。
色鮮やかなそれを見ながら、藍川は自分の親不孝ぶりをぼんやりと自戒した。
…なぜ、こんなことになってしまったのか…。
ひとりの女に恋をしただけなのに…。
停泊している小船に止まっていた鴎が、人恋しげに鳴いた。
…考えても仕方のないことだ…。
藍川は小さく溜息を吐くと頭を振り、タラップを登るべく脚を踏み出した。
「…藍川くん…」
…不意に…背後から、聞き覚えのある優しい…儚げな声が聞こえた。
…まさか…。
藍川は、恐る恐る振り返る。
藍川の切れ長の瞳が、驚きに見開かれる。
…そこに、ひっそりと佇むひと…。
「…暁様…!」
目の前の巨大な外国客船…。
既に多くの乗客で賑わう甲板…。
次々にタラップから船内へと乗り込む乗客達…。
あれに乗れば、藍川はフランスに着く。
大紋の言葉に特に抗わずに渡仏を決めたのは、ほかに何の展望もなかったからだ。
暁を監禁した事件は、両親だけには知らされた。
両親はすっかり藍川を腫れ物に触れるように扱いだした。
無理からぬことだ。
芸者と心中事件を起こし警察に捕まった二年後に、男爵家の令息を拉致監禁する事件を起こしたのだ。
両親は失神するほど狼狽した。
被害者の暁の温情を大紋から聞かされ、また前回に引き続き、大紋が藍川を精神的に支援してくれることになり、両親はすっかり大紋を頼り切るようなった。
「涼一郎くんには絵の才能があります。
ぜひ、それをフランスで開花させてあげてください。
それに…環境を変えることは何より彼のためになります」
鶴の一声だった。
フランス行きが決まり、両親がほっとしたのが手に取るように分かった。
藍川の将来を考えての判断もあるだろうが、このまま日本にいてまた大事件を起こされ、店の暖簾を穢されるのを恐れたのだろう。
藍川はふっと寂しげに笑った。
涙ながらに見送りに来ようとする母親を、藍川は拒んだ。
母親の泣き顔をこれ以上見たくなかったのだ。
…気の早い乗客が、見送りの者に紙テープを投げ出した。
色鮮やかなそれを見ながら、藍川は自分の親不孝ぶりをぼんやりと自戒した。
…なぜ、こんなことになってしまったのか…。
ひとりの女に恋をしただけなのに…。
停泊している小船に止まっていた鴎が、人恋しげに鳴いた。
…考えても仕方のないことだ…。
藍川は小さく溜息を吐くと頭を振り、タラップを登るべく脚を踏み出した。
「…藍川くん…」
…不意に…背後から、聞き覚えのある優しい…儚げな声が聞こえた。
…まさか…。
藍川は、恐る恐る振り返る。
藍川の切れ長の瞳が、驚きに見開かれる。
…そこに、ひっそりと佇むひと…。
「…暁様…!」