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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
暁は、以前と変わらぬ太陽の光というよりは月の光に照り映えるようなどこか神秘的な美貌で、藍川の目の前に佇んでいた。

…何か言わなければ…
いや、まず謝らなければ…
分かっているのに身体は凍りついたように強張る。
唇も動かない。

そんな藍川の全てを受け入れるかのように、暁は静かに微笑んだ。
「…今日の船だって春馬さんから聞いてね。…どうしても君に会っておきたかった…」

暁の背後…煉瓦造りの埠頭倉庫の壁側に月城が腕を組みながら佇み、静かだが強い眼差しでじっとこちらを見すえていた。
藍川はおずおずと暁に視線を戻す。

…自分の前に姿を現わすまでにどれだけの勇気を奮い起こしてくれたのだろう…。
そう思うと胸の奥が引き絞られるように痛んだ。

藍川は喉奥から絞り出すように叫んだ。
「申し訳ありませんでした…!」
そして深々と頭を下げた。
あとは心のままに謝罪する。
「暁様にあんな…あんな酷いことをして…貴方を傷つけようとして…本当に…本当に…申し訳ありません。
…許していただけるとは思っていません…。
けれど…せめて、僕のことは忘れてください…。
あんな忌まわしい記憶は忘れ去ってください…。
僕はもう二度と貴方の前には現れません。貴方にご迷惑をお掛けすることは決してしません。
だから…だから…」
…藍川の視線の先の、磨き上げられた暁の高価な黒い革靴がぼんやりと歪む。
染乃の面影を宿した美しいひと…。
僕は、このひとを染乃だと思い込みたかった…思い込んで、このひとを独占したかった…そして…このひとに愛されたかった…。
自分の醜いエゴだ。
染乃を突然失った哀しみをぶつけるようにこのひとを攫ってしまったのだ。
…謝っても謝り切れない…。
許されるとは思っていない…いないけれど…。

混沌とする胸の中で懺悔し続けている藍川の肩が、温かい手に包まれた。
…続いて、柔らかな声が耳に届く。
「…顔を上げて、藍川くん…」

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