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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
…怯える子どものように恐る恐る貌を上げる。
暁は静かに微笑んでいた。
取り繕った微笑みではなく、あるがままの藍川を受け止めて、そして受け入れてくれているような…そんな慈愛に満ちた表情であった。
「…どうして…?」
藍川が強張った貌のまま口を開く。
「…え?」
暁の美しい眉が不思議そうに寄せられる。
「どうしてそんな風に優しく微笑んで下さるのですか?
僕なんか…僕なんか…もっと詰って罵倒して下さって構わないのに…どうして…」
暁は瞬きもせずに藍川を見つめた。
「…君のことを怒ってない訳じゃないよ。完全に許してもいない。…あの時は本当にショックだったし、今も憤りは感じている」
藍川は項垂れた。
…そうだ…僕は…それだけのことをしてしまったのだ…。
…でも…
と、穏やかだが凛とした声が聞こえた。
「…あの時…君から途方もない哀しみが伝わって来たんだ…。そうしたら…染乃さんの気持ちが僕に不意に染み込んで来たんだ…」
「…え…?」
藍川は眼を見開く。
「染乃さんは、君をとても心配していて…それから…君に詫びているような気がしたんだ…」
…坊ちゃん、堪忍ね…
染乃の密やかな声が港に吹く潮風に乗り、藍川の耳に届いた…。
藍川は思わず辺りを見渡した。
…坊ちゃん、幸せになって…
染乃の声はやがて船の汽笛に、掻き消された。
「…染乃…!」
眼の前の暁の白く整った貌が、ぶわりと歪む。
藍川の頬に止めどなく流れ始めた涙を、暁が優しくその白く細い指で拭う。
「…僕への償いを考えているのなら、君が幸せになってくれ…」
「…暁様…」
「…そして、愛するひとに巡り会って、そのひとを幸せにしてあげてくれ…」
そうして暁は、黒曜石のように輝く美しい瞳を細めて笑った。
「約束だよ、藍川くん」
暁は静かに微笑んでいた。
取り繕った微笑みではなく、あるがままの藍川を受け止めて、そして受け入れてくれているような…そんな慈愛に満ちた表情であった。
「…どうして…?」
藍川が強張った貌のまま口を開く。
「…え?」
暁の美しい眉が不思議そうに寄せられる。
「どうしてそんな風に優しく微笑んで下さるのですか?
僕なんか…僕なんか…もっと詰って罵倒して下さって構わないのに…どうして…」
暁は瞬きもせずに藍川を見つめた。
「…君のことを怒ってない訳じゃないよ。完全に許してもいない。…あの時は本当にショックだったし、今も憤りは感じている」
藍川は項垂れた。
…そうだ…僕は…それだけのことをしてしまったのだ…。
…でも…
と、穏やかだが凛とした声が聞こえた。
「…あの時…君から途方もない哀しみが伝わって来たんだ…。そうしたら…染乃さんの気持ちが僕に不意に染み込んで来たんだ…」
「…え…?」
藍川は眼を見開く。
「染乃さんは、君をとても心配していて…それから…君に詫びているような気がしたんだ…」
…坊ちゃん、堪忍ね…
染乃の密やかな声が港に吹く潮風に乗り、藍川の耳に届いた…。
藍川は思わず辺りを見渡した。
…坊ちゃん、幸せになって…
染乃の声はやがて船の汽笛に、掻き消された。
「…染乃…!」
眼の前の暁の白く整った貌が、ぶわりと歪む。
藍川の頬に止めどなく流れ始めた涙を、暁が優しくその白く細い指で拭う。
「…僕への償いを考えているのなら、君が幸せになってくれ…」
「…暁様…」
「…そして、愛するひとに巡り会って、そのひとを幸せにしてあげてくれ…」
そうして暁は、黒曜石のように輝く美しい瞳を細めて笑った。
「約束だよ、藍川くん」