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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
「…!また薫様が泣いていらっしゃる!」
泉は、銀器を磨く手を止め、階下の作業室から二階の子供部屋へと走り出す。
同僚の下僕が、慌てて声をかける。
「…お、おい!本当か?…俺には聞こえないけどなあ…」

子供部屋に駆け込むと案の定、薫が籐の揺籠の中で貌を真っ赤にしながら泣き喚いていた。
泉は優しく抱き上げる。
「薫様、大丈夫ですよ。泉が来ましたよ。…よしよし、おむつが、濡れたのかな?」
器用にあやすと、ほどなくして薫は泣き止んだ。
そして、泉の貌を見ると嬉しそうに声を立てて笑った。
最近、薫は泉のことを覚えて、笑いかけてくれるようになったのだ。
泉の胸がふんわりと温かくなる。
…薫様は、本当に可愛いなあ…。
泉は薫が大好きだ。

この屋敷に勤めるようになり、8ヶ月が過ぎた。
泉が屋敷に来る数日前に産まれたと言う薫は丁度生後8カ月だ。
まだ慣れない屋敷の中を泉がうろうろしていると、泣いている薫の声が聞こえ、見兼ねて恐る恐る子供部屋に入り、あやしたことがある。

新生児はまだ目の焦点が合ってない筈だ。
だが、薫は泉を見てぴたりと泣き止んだのだ。
…白眼が青いほどに澄んだ美しい瞳…。
甘い乳の香り…。
心臓がぎゅっと捕まれるほどの愛しさを感じた。
…それから泉は、薫が泣いてはすっ飛んで行くようになったのだ。

泉の乳母はのんびりと優しい性格だが、耳がやや遠い。
しかも屋敷が広すぎて、薫が泣いていてもすぐには駆けつけられなかった。
「ありがとうねえ。泉さん。助かるわ」
にっこりと笑うふくよかな乳母の福は大好きだった祖母に似ていて、できるだけ助けてやろうと思ったのだ。

「…おむつは濡れてないなあ…。薫様、どうしたのかな?お母様に会いたくなったのかな?」
器用に抱っこしながら、子供部屋をゆっくりと歩く。
最近、はいはいをするようになった薫は床に降りたがった。
泉は柔らかな上等の絨毯が敷かれた床に薫を降ろす。
少し離れたところで手招きすると、きゃっきゃと喜びながら、泉の方まで可愛らしい動きではいはいをした。
水色のロンパースは、舶来品で横縞の模様が洒落ている。
…貴族様の赤ちゃんはお洋服もお洒落だな…。
赤ん坊ながら整った貌立ちの薫には良く似合う。
泉のところまで嬉しそうに這って来た薫を、愛しげに抱き上げる。
「薫様!凄い!はいはい、お上手になられましたね!」






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