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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
高い高いをしてやると、薫は弾けるように笑った。
「可愛いなあ…!薫様は…」
にこにこ笑って抱きしめていると、子供部屋の扉が開き、夫人の光が貌を覗かせた。
美しい黒髪を品良く結い上げ、サファイアの髪留めをあしらい、モスグリーンの絹の春物のドレスを美しく着こなした光は、とても一児の母とは思えないほどの若々しい美貌を誇っている。
泉は思わず見惚れてしまう。
「…奥様…」
光は完璧な華やかな美貌を綻ばせる。
「まあ、また泉があやしてくれたのね。ありがとう。…ナニーはどこに行ったのかしらねえ?」
唄うように言いながら、光は泉から薫を受け取る。
やはり母親には敵わない。
薫は光に抱かれると足をバタバタさせて喜んだ。
「…福さんは多分、薫様の離乳食の準備をされているのだと思います。…今日はオートミールと林檎のコンポートを召し上がっていただくと、張り切って料理長に指示されていましたから」
さりげなく福を庇う泉を見上げ、光は美しい眼を細める。
「…優しいのね、泉」
「い、いいえ…」
褒められて少し照れる。
「貴方がよく気がついてくれるから助かるわ」
薫が生後半年の頃、急に高熱を出したことがあった。
そのことに一番に気づいたのも泉だった。
いつもより愚図る回数が多くて、おかしいと思った泉が額に手を当てたら火のように熱かった。
すぐさま主治医が呼ばれ事なきを得たが、それ以来、礼也も光も泉に全幅の信頼を置いている。
新入りながら他の下僕より目端が効くし、飲み込みも早い。
…何より薫をとにかく可愛がっているのが驚くほどだった。
お陰で薫は光と礼也の次に泉の貌を覚えて、笑いかけるようになったほどだ。
月城と良く似た容姿だが、陽性でやや野性味ある美貌はたちまちメイド達を夢中にさせた。
屋敷を訪れる貴婦人や令嬢も泉に熱い視線を送るようになった。
前職場の黒田公爵家では夫人との色恋沙汰に巻き込まれ辞職に追い込まれたと礼也からは聞かされたが、この屋敷では女性にどんなに色目を使われても、一線を引く態度を崩さないし、けじめをつける。
…やはり月城の弟だけあって、信頼できる青年だわ…。
光は泉をとても頼りにするようになっていた。
「貴方は本当に薫を可愛がってくれるわね」
薫に頬ずりをしながら光は笑う。
「…あの…薫様は…暁様に似ておられる気がして…」
答えた途端、自分でも慌てる。
「可愛いなあ…!薫様は…」
にこにこ笑って抱きしめていると、子供部屋の扉が開き、夫人の光が貌を覗かせた。
美しい黒髪を品良く結い上げ、サファイアの髪留めをあしらい、モスグリーンの絹の春物のドレスを美しく着こなした光は、とても一児の母とは思えないほどの若々しい美貌を誇っている。
泉は思わず見惚れてしまう。
「…奥様…」
光は完璧な華やかな美貌を綻ばせる。
「まあ、また泉があやしてくれたのね。ありがとう。…ナニーはどこに行ったのかしらねえ?」
唄うように言いながら、光は泉から薫を受け取る。
やはり母親には敵わない。
薫は光に抱かれると足をバタバタさせて喜んだ。
「…福さんは多分、薫様の離乳食の準備をされているのだと思います。…今日はオートミールと林檎のコンポートを召し上がっていただくと、張り切って料理長に指示されていましたから」
さりげなく福を庇う泉を見上げ、光は美しい眼を細める。
「…優しいのね、泉」
「い、いいえ…」
褒められて少し照れる。
「貴方がよく気がついてくれるから助かるわ」
薫が生後半年の頃、急に高熱を出したことがあった。
そのことに一番に気づいたのも泉だった。
いつもより愚図る回数が多くて、おかしいと思った泉が額に手を当てたら火のように熱かった。
すぐさま主治医が呼ばれ事なきを得たが、それ以来、礼也も光も泉に全幅の信頼を置いている。
新入りながら他の下僕より目端が効くし、飲み込みも早い。
…何より薫をとにかく可愛がっているのが驚くほどだった。
お陰で薫は光と礼也の次に泉の貌を覚えて、笑いかけるようになったほどだ。
月城と良く似た容姿だが、陽性でやや野性味ある美貌はたちまちメイド達を夢中にさせた。
屋敷を訪れる貴婦人や令嬢も泉に熱い視線を送るようになった。
前職場の黒田公爵家では夫人との色恋沙汰に巻き込まれ辞職に追い込まれたと礼也からは聞かされたが、この屋敷では女性にどんなに色目を使われても、一線を引く態度を崩さないし、けじめをつける。
…やはり月城の弟だけあって、信頼できる青年だわ…。
光は泉をとても頼りにするようになっていた。
「貴方は本当に薫を可愛がってくれるわね」
薫に頬ずりをしながら光は笑う。
「…あの…薫様は…暁様に似ておられる気がして…」
答えた途端、自分でも慌てる。