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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
…俺もいつか、母さんに仕送りして二人に贅沢な物でも買ってもらいたいな…。
と、思うが…自分の学費や生活費などがギリギリで、まだ兄のように家族の役に立てないのが歯痒い。
「…そう。…いいね、お母様や妹さんが故郷にいるって…」
暁が羨ましそうにふっと微笑う。
「…僕には母がもういないから、凄く羨ましい。…月城や君みたいに、親孝行をしたかった…」
…苦労ばかりして、最後は病で亡くなってしまったからね…と、寂しげに眼を伏せた。
長い睫毛が透き通るように白い頬に影を落とし、儚げな美しさを醸し出す。
泉の胸はきゅっと締め付けられた。
「…でも…暁様にはあんなにお優しくて頼もしいお兄様やお義姉様がいらっしゃいます…あと…薫様も…」
不器用に励ますように口を開いた泉を、驚いたように見上げる。
「…そうだね…。あんなに良い兄さんや義姉さんはいないよね。…薫くんも可愛いし」
笑うと寂しげな美貌がぱっと明るくなる。
泉は嬉しくなって頷いた。
「…そうだ。また、夜学に通い始めたんだって?」
暁が尋ねる。
「は、はい。…旦那様に夜学のことを申し上げたら、是非通いなさいと仰って下さって…生田さんにも話を通して下さったんです」
泉は駿河台にある法律専門の夜学に通っていた。
…密かな夢は弁護士だ。
黒田公爵家をクビになり夜学どころではなくなったのだが、縣家に勤めるようになり、ほどなくしたある日のことだ。
泉は一階にある図書室の掃除を任され、中に入った途端、驚きの余り眼を見張った。
天井の高い広々とした部屋には高い本棚が壁中にあり、びっしりと立派な本が整然と並んでいたのだ。
…凄い…こんなに沢山の本がある図書室は初めて見た…!
通っていた夜学の図書室はここの半分にも満たない広さだった。
黒田公爵家も伊勢谷子爵家も、勉学や教養に重きを置く家風ではなく、図書室はお飾り程度のものだった。
背表紙を見る限り、多岐にわたる様々な本が並んでいた。
見たことのない文字が並ぶ…。
…外国の本もある…凄い…凄い!
感動の余り立ち竦む泉の背後から、低い美声が響く。
「…本が好きなの?」
はっと振り返ると、この家の主人、縣男爵が佇んでいた。
「旦那様!」
慌ててお辞儀をする泉に、人好きのする笑顔でゆっくりと近づいてくる。
縣男爵は、貴族的な気高い風貌だが雄々しく、脆弱さが皆無な姿の良い美男子だ。
と、思うが…自分の学費や生活費などがギリギリで、まだ兄のように家族の役に立てないのが歯痒い。
「…そう。…いいね、お母様や妹さんが故郷にいるって…」
暁が羨ましそうにふっと微笑う。
「…僕には母がもういないから、凄く羨ましい。…月城や君みたいに、親孝行をしたかった…」
…苦労ばかりして、最後は病で亡くなってしまったからね…と、寂しげに眼を伏せた。
長い睫毛が透き通るように白い頬に影を落とし、儚げな美しさを醸し出す。
泉の胸はきゅっと締め付けられた。
「…でも…暁様にはあんなにお優しくて頼もしいお兄様やお義姉様がいらっしゃいます…あと…薫様も…」
不器用に励ますように口を開いた泉を、驚いたように見上げる。
「…そうだね…。あんなに良い兄さんや義姉さんはいないよね。…薫くんも可愛いし」
笑うと寂しげな美貌がぱっと明るくなる。
泉は嬉しくなって頷いた。
「…そうだ。また、夜学に通い始めたんだって?」
暁が尋ねる。
「は、はい。…旦那様に夜学のことを申し上げたら、是非通いなさいと仰って下さって…生田さんにも話を通して下さったんです」
泉は駿河台にある法律専門の夜学に通っていた。
…密かな夢は弁護士だ。
黒田公爵家をクビになり夜学どころではなくなったのだが、縣家に勤めるようになり、ほどなくしたある日のことだ。
泉は一階にある図書室の掃除を任され、中に入った途端、驚きの余り眼を見張った。
天井の高い広々とした部屋には高い本棚が壁中にあり、びっしりと立派な本が整然と並んでいたのだ。
…凄い…こんなに沢山の本がある図書室は初めて見た…!
通っていた夜学の図書室はここの半分にも満たない広さだった。
黒田公爵家も伊勢谷子爵家も、勉学や教養に重きを置く家風ではなく、図書室はお飾り程度のものだった。
背表紙を見る限り、多岐にわたる様々な本が並んでいた。
見たことのない文字が並ぶ…。
…外国の本もある…凄い…凄い!
感動の余り立ち竦む泉の背後から、低い美声が響く。
「…本が好きなの?」
はっと振り返ると、この家の主人、縣男爵が佇んでいた。
「旦那様!」
慌ててお辞儀をする泉に、人好きのする笑顔でゆっくりと近づいてくる。
縣男爵は、貴族的な気高い風貌だが雄々しく、脆弱さが皆無な姿の良い美男子だ。