この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
その日は5月の爽やかな薫風の日和であった。
その夕刻、薫のお披露目会は賑やかに開かれた。
昨日までに屋敷中のシャンデリアや窓、鏡や床はぴかぴかに磨き上げられその光の輝きたるや、眩いほどであった。
庭師が丹精込めて育てた美しい花々がそこ彼処に飾られ、お祝いの華やかさを演出する。
続々と車寄せに到着する舶来車から降り立つ紳士、淑女の応対に追われ、夜会の華やかさや煌びやかさなど感じる暇もないまま、泉は暫くは仕事に熱中していた。
北白川伯爵令嬢の二人は飛び抜けて華やかな容姿とドレスだったのですぐに分かった。
…その後ろに影のように控える執事の兄も目の端で確認した。
兄は泉と目が合うと、僅かに頷いた…ような気がする。
招待客がほぼ到着し、大広間に入った頃、ようやく泉は胸をなでおろした。
…まだまだ下っ端の泉は大広間の中の招待客の接待を任されてはいない。
招待客の前に出して貰えるのは、生田のお眼鏡に敵ってからだ。
「…お前は慌てると言葉遣いが雑になるのが欠点だ」
と、ため息を吐かれた。
だからクローク部屋となっている部屋の招待客から預かった毛皮のコートだの、シルクハットだの、ステッキだのといった細々したものの整理を任された。
…それも膨大な量だから、かなりの仕事だ。
必死で捌いていると部屋の扉がノックされ、家政婦の彌生が貌を出した。
「奥様がお呼びですよ」
「…え?」
彌生は頭を振りながら、両手を広げた。
「薫様がさっきからずっと泣き止まないのですよ。旦那様や光様や福さんがあやしても全く駄目で…。
奥様が、泉なら泣き止むかも…と仰られて…」
言葉の途中で、泉は駆け出した。
「すぐ行きます‼︎」
「あ、泉!走ってはなりませんよ!」
彌生の慌てる声も耳に留まらず、泉は大広間を目指す。
…可哀想に…薫様…あんなにたくさんの知らない人たちがいるんだ。
そりゃ怖くなって泣き出すさ!
泉は薫の気持ちを思って、いてもたってもいられなくなる。
…さっきも子供部屋で綺麗なレースのベビードレスに着替えさせられながら、不安そうな貌をして泉を見上げていたのだ。
薫は最近、人見知りをするようになった。
大勢の知らない人が詰めかけている普段入ったことのない大広間など、怖くて仕方がないのだろう。
「薫様!今行きますよ!」
泉はメイド達が目を丸くするのにも構わず、廊下を走り抜けた。
その夕刻、薫のお披露目会は賑やかに開かれた。
昨日までに屋敷中のシャンデリアや窓、鏡や床はぴかぴかに磨き上げられその光の輝きたるや、眩いほどであった。
庭師が丹精込めて育てた美しい花々がそこ彼処に飾られ、お祝いの華やかさを演出する。
続々と車寄せに到着する舶来車から降り立つ紳士、淑女の応対に追われ、夜会の華やかさや煌びやかさなど感じる暇もないまま、泉は暫くは仕事に熱中していた。
北白川伯爵令嬢の二人は飛び抜けて華やかな容姿とドレスだったのですぐに分かった。
…その後ろに影のように控える執事の兄も目の端で確認した。
兄は泉と目が合うと、僅かに頷いた…ような気がする。
招待客がほぼ到着し、大広間に入った頃、ようやく泉は胸をなでおろした。
…まだまだ下っ端の泉は大広間の中の招待客の接待を任されてはいない。
招待客の前に出して貰えるのは、生田のお眼鏡に敵ってからだ。
「…お前は慌てると言葉遣いが雑になるのが欠点だ」
と、ため息を吐かれた。
だからクローク部屋となっている部屋の招待客から預かった毛皮のコートだの、シルクハットだの、ステッキだのといった細々したものの整理を任された。
…それも膨大な量だから、かなりの仕事だ。
必死で捌いていると部屋の扉がノックされ、家政婦の彌生が貌を出した。
「奥様がお呼びですよ」
「…え?」
彌生は頭を振りながら、両手を広げた。
「薫様がさっきからずっと泣き止まないのですよ。旦那様や光様や福さんがあやしても全く駄目で…。
奥様が、泉なら泣き止むかも…と仰られて…」
言葉の途中で、泉は駆け出した。
「すぐ行きます‼︎」
「あ、泉!走ってはなりませんよ!」
彌生の慌てる声も耳に留まらず、泉は大広間を目指す。
…可哀想に…薫様…あんなにたくさんの知らない人たちがいるんだ。
そりゃ怖くなって泣き出すさ!
泉は薫の気持ちを思って、いてもたってもいられなくなる。
…さっきも子供部屋で綺麗なレースのベビードレスに着替えさせられながら、不安そうな貌をして泉を見上げていたのだ。
薫は最近、人見知りをするようになった。
大勢の知らない人が詰めかけている普段入ったことのない大広間など、怖くて仕方がないのだろう。
「薫様!今行きますよ!」
泉はメイド達が目を丸くするのにも構わず、廊下を走り抜けた。