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美肉の狩人
第1章 絶望の中で見つけた獲物 香織
 現実を受け入れられないほど弱くはないつもりだ。でも、理由を後付けするために自分の悪口を聞かされるんじゃ堪らない。
 「実印は、お前が持っているんだろう。」そう言って三本目の缶ビールを開けた。酒を飲む以外は、すべて面倒だった。ただただ、独りになりたかった。
 「あなたにお会いすることは、もう、ありません。」そう言って妻が出ていったあとには、ひとりには広すぎるマンションが残った。俺は、ローンを清算して会社近くのワンルームマンションに引っ越した。
 ろくに趣味もない俺には、仕事しか残されてはいなかった。いや、女遊びは激しくなった。もちろん、愛情なんかいらなかった。ただ、欲望を満しながら、オスとしての力を誇示し、確認できればよかった。「俺は、役立たずじゃない。ほら、こいつだって、こんなに喜んでいるじゃないか。」そう思えればよかった。
 快楽を貪る中で、快楽を与える楽しさを知った。組み敷いた女が、俺のモノで貫かれて、激しくからだを仰け反らせながらよがり、果てて息も絶え絶えになるたびに、力が満ちてくるのを覚えた。
 セックスを楽しみたいって女は案外多いものだ。俺は、洒落た酒場やパーティーに集う、そんな女たちを狩りまくった。
 「あの男は上手い」とか「あと腐れがなくていい」とか、一度、そういう評判が立つと、ますます、女には不自由しなくなった。もちろん、深入りはしなかった。愛情に嫌悪しながら愛情に飢えていた俺が、やりっぱなしで済んだのは仕事のおかげだ。
 仕事は、女より楽しかった。成功するたびに覚える、つかの間の満足感が俺の生きがいだった。だから働いた。そして、異例の速さでの次長に昇格した。
 人事の内示が発表されたとき、俺は素直に喜んだ。得た役職よりも、役職によって広がっていく可能性が嬉しかった。
 だが、それも昨日までのことだ。あと半年の余命では、まともに働けるのは3カ月ってとこだろう。いま抱えているプロジェクトだって完成しやしない。俺は、また、あっけなく生きがいをなくしてしまったらしい。
 眩しすぎる空だ。睨みつけるように見上げてみても、空は曇ってはくれない。目の前の公園では、喜びに満ちた母親と子どもたちが歓声を上げている。明日、俺が死んだって、こいつらには、なんの関係もない。あたり前のことだ。もちろん、恵美子や佳奈にも・・・。
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