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美肉の狩人
第1章 絶望の中で見つけた獲物 香織
 シンクの下を開いてみる。目的のものがあった。包丁だ。新しそうなものを掴むと、迷わず二階に上がった。
 階段を上がり切って吹き抜けを横切ると、個室の扉が続いている。その境目の壁に身を隠しながら女を待った。やがて、バタバタと廊下を駆けてくる足音がする。子どもが、居間に駆け込んできた。そして、ソファに飛び乗る。続いて女も現れた。
 女はすぐにキッチンのほうに向かった。なにかの準備をしているようだ。ガチャガチャと食器を扱う音がする。しばらくして戻ってきた女の手にはコップを乗せたトレイがあった。それをみた子どもが歓声を上げて手を伸ばす。しあわせな母子の午後のひと時ってやつか。
 女は、柔らかな素材のワンピースに着替えていた。部屋着の薄い布地から、くっきりと豊かな胸や乳首のかたちが浮かんでみえる。あの様子だと下着も身に付けていないかもしれない。
 子どもにジュースを渡して、自分も少しだけストローを口に含んでトレイに戻すと、ドライヤーで髪を乾かしはじめた。
 その音に背を向け、そっと、二階のドアを開けてみる。子ども部屋だ。まだ、ろくに使われていないようで、おもちゃが散乱している。となりは、夫婦の寝室だ。ダブルベッドのサイドテーブルにウェディングドレス姿の女が、夫と一緒に笑っている。レースのカーテンが開けられたベランダには、洗濯物が干されている。いまはまだ、午後2時だ。俺は手を伸ばしてエアコンを起動させた。
 見当をつけてクローゼットの引き出しを開ける。下着が奇麗に整理されている。俺は、もうひとつのほうを引きだした。あたりだ。ハンカチに靴下、ストッキングなどがしまわれている。
 俺は、ストッキングのひとつをとりだし被ってみた。もちろん、顔を見られないためだ。捕まるのは構わないが、一度目で捕まっては面白くない。
 ストッキングは、思った以上に窮屈だった。一度、脱いでから、包丁を使って目と口、それから、少し考えて、鼻を出すための穴をくり抜いた。
 そこまで準備をしてから階下を伺うと、ジュースを飲み終えた子どもは、いつのまにか、母親に頭を預けてソファに寝転んでいる。その髪をなでながら、女は、子守歌を歌っていた。
 俺は、ストッキングを被り、廊下の鏡に姿を写してみた。思わず失笑してしまいそうになる。なるほど、これなら、レイプ魔らしく見える。それにしても、不気味さと滑稽さは紙一重だ。
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