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美肉の狩人
第1章 絶望の中で見つけた獲物 香織
 後は、ひたすら機会をうかがうだけだ。やはり、緊張する。罪を犯すのだから当たり前だ。ピリピリと泡立つような時間が過ぎていく。やがて、子どもが寝てしまったのだろう、女は、そっとからだをずらして、子どもの頭を膝の上から降ろした。
バスタオルを掛けてやりながら、眠ってしまった子どもの顔を見つめている。頭をなでて、バスタオルの上から、優しくトントンと胸を叩いてやる。そして、「おやすみなさい」と話しかけると、トレイを持ってキッチンのほうへと消えていった。
 そこまで見届けて、俺は夫婦の寝室にからだを滑り込ませて、そっと、ドアを閉めた。ひと先ず、カーテンを閉めて女を待つ。子どもは寝たばかり。買い物に行くまでに、まだ、時間がある。洗濯物を取り込みに、必ず上がってくるはずだ。俺は、じっと、息を殺して待った。
 思ったとおり、二階に上がってくる足音がする。ドアの陰に隠れた俺は、なんとなく、包丁を部屋の隅に置いた。できれば揉み合って、女を刺してしまうようなことはしたくなかった。
 臆病風を吹かせたわけではない。レイプくらいなら、女の口を塞ぐ手段などいくらでもある。だが、殺人や傷害事件となれば隠しようもない。そく警察に追われることになる。無駄な労力は使いたくない、それだけのことだ。
 抵抗されたら、殴れ。子どもをネタに脅せ。恐怖を与えろ。いまさらためらうことなどない。俺は、息をひそめたまま、そんな身勝手なことを考えていた。
 スリッパの音が大きくなる。ドアの前で止まった。ドアノブが回って、内側に開いてくる。カーテンに気がついたのだろう。「あらっ・・」そんな声が聞こえたが、それ以上怪しむこともなく、ドアを開け放した。女は窓に向って歩いていくよし、落ち着いている、そう思いながら俺は、ゆっくりとドアを閉めた。
 ドアが閉まる音に気づいて振り返えった女が悲鳴を上げそうになる。俺は躊躇なく掴みかかり、そして、強引にベッドに押し倒した。
 悲鳴を上げる女に馬乗りになって、素早く口を塞ぐ。怯えた表情を浮かべて、涙が潤みはじめた目を大きく見開く。俺は怯えきった獲物に用意していた言葉を囁いた。
 「静かにしろ。騒いだら、下で寝てる娘もただじゃ済まないぞ。」
 そう脅しをかけると、女の顔が、さらに引き攣り歪んでいく。俺は、とどめを刺すように、加減しながらも数発、女の顔に平手打ちをくれてやった。
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