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5センチの景色
第6章 景
「俺の・・・家に行こうか」

それは本当に自然で、安達さんの家に行くことは
当たり前のような気がした。

軽く酔った身体に69階から降りるエレベーターは
ふわふわして、ぎゅっと安達さんにしがみつく。

エレベータを降りて歩き出した時
ヒールが高すぎてカクンとなった。

「ほら。俺につかまって。
その靴はまだ美鈴には早いな」

小さく笑いながら何気なく言われたその言葉に、
自分でも感じた以上に悲しくなった。

美鈴にはまだ早いな―――

それは靴だけじゃなくて
大人の恋も
オフィスラブも
安達さんとの恋も・・・
何もかもが、まだ早いと笑われたようで
その場所から一歩も動けなくなった。

美鈴にはまだ早いな―――

いったい何が?
靴が?
何もかもが?

そう聞き返したくて
じっと立ちすくむ私に
安達さんは数歩前に進んだ場所から私を振り返った。

「美鈴?」

「私が・・・この靴を履いたら似合いませんか?」
「え?」
「私に大人の恋は早すぎますか?」
「・・・・」
「私にオフィスラブは早すぎますか?」

あふれそうな涙に
心の奥底では早いと自分自身で認めていた。

今日のデートは明らかに私の身の丈より
ずっとずっと大人のデートだった。
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