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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第1章 其の壱
「…いいけど…」
仏頂面で答えた忍に、百合子は嬉しそうに微笑んだ。
それは、寂しげな印象が一掃されるようなきらきらと煌めくような微笑みだった。
忍の胸がどきどきと音を立てた。
「ありがとうございます、忍さん。私、一人っ子だったので弟ができてとても嬉しいです」
素直な言葉が忍の胸に真っ直ぐに届く。
百合子からは仄かな百合の花の薫りがした。
忍は居ても立っても居られないような感情に襲われ、
「うん。よろしく」
と、ぶっきらぼうに答えるや否やさっさと大階段を駆け上がった。
父親のがさつな怒鳴り声が背中に響く。
「私への詫びはなしか!忍!全くお前は…!」
篤の取りなす声が後を追う。
「父さん、今日のところはそれくらいで許してやってください。
忍も反省していますよ。
…さあ、百合子さん。屋敷の中を案内いたします。
どうぞこちらに…」
階上からちらりと振り返る。
百合子は恥ずかしそうに兄に手を取られながら、東翼へと歩いていった。
…ふ…ん。
兄貴も朴念仁な貌をして、美人の嫁さんが来るとでれでれなんだな。
百合子の振袖の黒い袂が静かな蝶のように舞いながら、忍の視界から消えた。
…でも…
手摺りに肘をついて尚も見つめる。
…すごく、すごく綺麗なひとだったな…。
しかしすぐに唇を歪める。
…まあ、俺には関係ないひとだけど…。
忍はそのままずかずかと廊下を歩きながら、自室へと入って行った。
仏頂面で答えた忍に、百合子は嬉しそうに微笑んだ。
それは、寂しげな印象が一掃されるようなきらきらと煌めくような微笑みだった。
忍の胸がどきどきと音を立てた。
「ありがとうございます、忍さん。私、一人っ子だったので弟ができてとても嬉しいです」
素直な言葉が忍の胸に真っ直ぐに届く。
百合子からは仄かな百合の花の薫りがした。
忍は居ても立っても居られないような感情に襲われ、
「うん。よろしく」
と、ぶっきらぼうに答えるや否やさっさと大階段を駆け上がった。
父親のがさつな怒鳴り声が背中に響く。
「私への詫びはなしか!忍!全くお前は…!」
篤の取りなす声が後を追う。
「父さん、今日のところはそれくらいで許してやってください。
忍も反省していますよ。
…さあ、百合子さん。屋敷の中を案内いたします。
どうぞこちらに…」
階上からちらりと振り返る。
百合子は恥ずかしそうに兄に手を取られながら、東翼へと歩いていった。
…ふ…ん。
兄貴も朴念仁な貌をして、美人の嫁さんが来るとでれでれなんだな。
百合子の振袖の黒い袂が静かな蝶のように舞いながら、忍の視界から消えた。
…でも…
手摺りに肘をついて尚も見つめる。
…すごく、すごく綺麗なひとだったな…。
しかしすぐに唇を歪める。
…まあ、俺には関係ないひとだけど…。
忍はそのままずかずかと廊下を歩きながら、自室へと入って行った。