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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第1章 其の壱
数日後、兄の篤が帰宅すると直ぐに、日本橋の老舗の呉服屋が呼ばれ、夫婦の広い居間には色鮮やかな反物が広げられていた。
自ら出向いた呉服屋の主人は、百合子を見て有り余る賞賛を送った。
「まあ、何と眩いばかりにお美しい奥様でしょうか…!
こんなにお美しい奥様に着ていただけるお着物は幸せでございますよ」
篤は興味深そうに反物を見比べた。
「錦紗や綸子縮緬もお似合いになりそうだ。
百合子さんは色白でいらっしゃるから、少し濃い色もいいですね。
チューリップや薔薇のデザインなんかも斬新で面白い。
…もうすぐ夏が来ますし、紋紗の着物もお誂えなさい」
着物に詳しく自らもよく着る篤は、様々なアドバイスをしてみせた。
「お好きな柄でお好きなだけ誂えて下さい。もちろん帯も全て…。遠慮はいりません」

そして篤はそっと百合子に詫びた。
「忍から聞きました。…嫌な思いをさせて申し訳ありません」
百合子は驚いたように、傍らの長椅子で寝そべって愛犬のコリーのジャックと遊ぶ忍を振り返る。
忍は素知らぬ貌だ。

「…いいえ、そんな…」
篤は人の好さげな…しかしやや気弱な微笑みをその品の良い貌に浮かべた。
「母は昔からああいう性格なんです。腹が立つこともあるかも知れませんが…どうか堪えて下さい」
百合子は静かに微笑み、頷いた。
「はい。…私は大丈夫です。どうぞお気になさらないで下さいませ」
そして、忍をそっと見遣る。
忍はちらりと百合子を見ると、少し照れくさそうな貌をしてジャックを連れ、バルコニーから部屋を出てしまった。

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