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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第1章 其の壱
…着物か…。

忍は外のバルコニーの端から窓越しに、夫婦の居間を眺める。
呉服屋の勧めに応じて、はにかみながら反物を纏う百合子を、兄の篤は愛おしげに見つめていた。
元々物静かであまり喜怒哀楽を表に出さない篤が、百合子には何くれとなく世話を焼き、忍ですら解るほどにその愛情を示している様子には驚きを禁じ得なかった。

…でも…
忍は密かに思う。
…義姉さんは洋服も似合いそうなのにな…。

俺だったら、綺麗な色のドレスをたくさん誂えてやるのにな…。
ふわふわした砂糖菓子みたいな色をしたドレスや、真珠色のレースのドレスや…やや裾が短い…パリの職業婦人が着るようなスマートなドレスや…。
そうして、シンデレラが履くような華奢な靴を履かせて…。
綺麗な髪を華やかにカールさせて…あの桜貝みたいな耳には、真珠のイヤリングを飾るんだ…。

…きっと綺麗だろうな…。
想像の百合子は西洋画のように鮮やかに煌めいて美しい…。
ふっと笑いながら部屋の中を見る。

…百合子は篤に向かい、恥ずかしそうに笑いかけていた。
忍の心にふんわり浮かんだシャボン玉が、くしゃりとひしゃげる。
そしてそんな自分に戸惑う。

…俺は…何を考えているんだ…。
溜息を吐くと、ジャックに声をかけて駆け出す。
「さあ、行くぞ。今日こそボール投げはマスターしてくれよ。そうじゃないと、いつまでもお前は馬鹿犬扱いだ」
ジャックは嬉しそうに吠えると、尻尾を振りながら忍の後を追いかけた。

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