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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第1章 其の壱
日本を出てから一週間以上経った。
百合子と忍は同じ寝台で寝んでいる。
夜毎、忍は百合子を胸に抱き、愛おしげにくちづけをする。
くちづけには…少し慣れたと思う。
忍は、甘い蜜のような愛の言葉を囁く。

「…愛しているよ、百合子…君とこうしていられるなんて…」
「…忍さん…」
…しかし、それ以上は決して求めようとしない。

それは百合子の身体がいつまでも強張り、男の身体を無意識に恐れているからだろう。

…濃密なくちづけのあと…欲望を募らせた忍は一度、百合子の寝間着の襟元に手を掛けようとしたことがある

「百合子…君が欲しい…!」
「…忍さ…ん…ま…っ…て…」
…しかし百合子が身を縮めてしまったので…そのまま小さく息を吐くと、そっと手を離したのだ。
そして、耳元で
「…ごめんね、百合子…」
…と静かに詫びると、いつものように百合子の白い額に愛情を込めたキスを落とし、優しく抱きしめた。
「…ごめんなさい…私…」
「謝らないで、百合子…。俺が悪い。待つよ…。いつまでも…君が俺を受け入れられるまで…」
そう言って自分の胸深くに百合子を抱き込んだ。

…忍が静かな寝息を立てるまで、百合子はまんじりともしなかった。
忍の爽やかな柑橘類の匂いの中に漂う若い雄の匂いが、百合子を眠らせないのだ。
少し体勢を変えようと下肢を動かした時…。
百合子はびくりと身体を震わせた。
…自分の寝間着の太腿辺りに当たる熱く硬いもの…。
…遠い昔…篤との閨で、このような形状のものに触れたことがあった…。
…もしかして…。
百合子は羞恥で身体中を熱くする。

亡き夫は百合子を真綿に包むように大切に愛した。
百合子が余りに儚げで華奢で、壊してしまいそうなのを恐れたのだ。
百合子が初心過ぎたことも要因だった。
だから性の営みもそう多くはなく、穏やかなものばかりであった。
夫の性器に触れさせられたことも…もちろん自ら触れたこともなかった。

…だから男性の身体の秘部の形状がどんなものであるのか…明確に分からないところがあったのだ。

だが…
この脚に触れる熱い塊は…忍の欲情した牡なのだ…。

百合子は震えるような羞恥と畏怖を感じた。
…嫌悪ではない。
しかし、身の置き所のない切ない感情に百合子は身体を離すことも出来ずに、そのまま男の胸元に貌を埋め呟いた。

「…忍さん…愛しています…」


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