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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第1章 其の壱
和やかにお茶の時間が始まった。
百合子は司の世話を焼きながら、眩いばかりの調度品に囲まれた客間を見渡す。
…まるでお伽話のお城のよう…。
古い伝統と格式の旧家で育った百合子には西洋の屋敷や調度品には疎い。
西洋風の文化や食生活に触れたのは風間の家に嫁いでからであった。
一八まで通っていた女学校は良妻賢母を育てる為の教育しか行っておらず、西洋の歴史や文化、生活に触れる機会は少なかった。
女学校を卒業して直ぐに実父が亡くなり、百合子を疎んじている継母と二人きりになったので、百合子は殆ど屋敷に閉じ込められたような生活となった。
継母は経済的貧困を理由に、百合子の趣味や衣服を誂えることにも制限をかけた。
…自分は蔵にある高価な骨董品を売り捌き、贅沢三昧をしていたのだが…。
百合子に同情した女中達が亡き母や祖母の着物や帯、宝石類を蔵から密かに持ち出し、百合子の部屋に隠した。
そのお陰で百合子は母や祖母から受け継いだ歴史と愛着のある着物や宝石を手放さずに済んだのだ。
結婚してからは、夫の篤が時間の許す限り百合子を音楽会やオペラ、バレエ鑑賞などに連れて行ってくれた。
家ばかりだと気詰まりだろうと、西洋料理のレストランや、銀座の名店に買い物にも連れ出してくれた。
新婚間もないある日、百合子は夫に言われたことがある。
「…見合い話の席で、僕は百合子さんに一目惚れしました。…貴女にとっては周りの思惑だらけの政略結婚以外何物でもなかっただろうけれど…僕はどうしても貴女を妻に迎えたかったのです。
僕のところに嫁いでくれて、ありがとう…。
本当に感謝しています。
だから…僕のことは頼れる兄とでも思ってくれればいいのです。好きになってくれなくてもいい…。
僕は百合子さんが僕と一緒になって良かったと何十年かして思ってくれたらそれで十分なのです…」
そう言って寂しげに笑う篤に、百合子は思わず叫んだ。
「どうしてそんなことを…?…私…旦那様が好きです。
旦那様は私をとても大切にして下さるし、尊重して下さいます。実家ではもう居場所がなかった私を救って下さったのは旦那様です。
…だから…私は良い妻になれるように努力します。旦那様に幸せになって頂けるように努力します」
篤はその品の良い大人しげな貌にとても嬉しそうな表情を浮かべ、百合子の頬に優しく触れた。
「…ありがとう、百合子さん…」
百合子は司の世話を焼きながら、眩いばかりの調度品に囲まれた客間を見渡す。
…まるでお伽話のお城のよう…。
古い伝統と格式の旧家で育った百合子には西洋の屋敷や調度品には疎い。
西洋風の文化や食生活に触れたのは風間の家に嫁いでからであった。
一八まで通っていた女学校は良妻賢母を育てる為の教育しか行っておらず、西洋の歴史や文化、生活に触れる機会は少なかった。
女学校を卒業して直ぐに実父が亡くなり、百合子を疎んじている継母と二人きりになったので、百合子は殆ど屋敷に閉じ込められたような生活となった。
継母は経済的貧困を理由に、百合子の趣味や衣服を誂えることにも制限をかけた。
…自分は蔵にある高価な骨董品を売り捌き、贅沢三昧をしていたのだが…。
百合子に同情した女中達が亡き母や祖母の着物や帯、宝石類を蔵から密かに持ち出し、百合子の部屋に隠した。
そのお陰で百合子は母や祖母から受け継いだ歴史と愛着のある着物や宝石を手放さずに済んだのだ。
結婚してからは、夫の篤が時間の許す限り百合子を音楽会やオペラ、バレエ鑑賞などに連れて行ってくれた。
家ばかりだと気詰まりだろうと、西洋料理のレストランや、銀座の名店に買い物にも連れ出してくれた。
新婚間もないある日、百合子は夫に言われたことがある。
「…見合い話の席で、僕は百合子さんに一目惚れしました。…貴女にとっては周りの思惑だらけの政略結婚以外何物でもなかっただろうけれど…僕はどうしても貴女を妻に迎えたかったのです。
僕のところに嫁いでくれて、ありがとう…。
本当に感謝しています。
だから…僕のことは頼れる兄とでも思ってくれればいいのです。好きになってくれなくてもいい…。
僕は百合子さんが僕と一緒になって良かったと何十年かして思ってくれたらそれで十分なのです…」
そう言って寂しげに笑う篤に、百合子は思わず叫んだ。
「どうしてそんなことを…?…私…旦那様が好きです。
旦那様は私をとても大切にして下さるし、尊重して下さいます。実家ではもう居場所がなかった私を救って下さったのは旦那様です。
…だから…私は良い妻になれるように努力します。旦那様に幸せになって頂けるように努力します」
篤はその品の良い大人しげな貌にとても嬉しそうな表情を浮かべ、百合子の頬に優しく触れた。
「…ありがとう、百合子さん…」