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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第1章 其の壱
…旦那様は…今の私をどう思っておられるかしら…。
弟の忍さんと駆け落ちのように日本を離れた私を…。

大和撫子は二夫にまみえず…という女学校の教えを染み込まされていた百合子は、夫が亡くなり六年近く経った今でもやはりどこか後ろめたいような気持ちが拭えないのだ。

百合子はジュリアンと楽しげに談笑している忍を見る。
…明るい髪色に西洋人的な青みを帯びた肌、高く形の良い鼻梁…そして何よりその彫りの深い目元に輝く琥珀色の美しい瞳…。
彼はまるで、生まれながらの西洋人のように見えるのだ。
日本ではその日本人離れした容姿が周りの人々から目を峙てられることも多かったが…ここ、フランスでは忍は周りの人間と遜色なく馴染み、生き生きとし…伸びやかにさえ見える。
百合子はそんな忍が、ひたすらに眩しかった。

「百合子、どうしたの?疲れた?」
ややぼんやりしたように忍を見つめていた百合子に気遣わしげに声を掛ける。
「…あ、申し訳ありません。大丈夫です…」
慌てて微笑みを浮かべる百合子に、ジュリアンが気を利かせ、提案する。
「長い船旅でお疲れでしょう。今後の話は明日するとして、今日はもう部屋でゆっくりお休み下さい。
食事は部屋に運ばせますよ。親子水入らず、気兼ねなくゆっくりして下さい。
今、家政婦のアンヌに部屋を案内させます」


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