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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第2章 カルチェ・ラタン
百合子は慌てて首を振る。
その儚げな美貌に寂しげな笑みを浮かべ
「いいえ。…皆様ご親切にしてくださいますわ。…私が気にしすぎなのかもしれません…」
…ずっと世捨て人のように暮らして来た…。
司の成長だけが楽しみで…。
狭い世界でひっそりと暮らしていた自分がいきなり華やかで進歩的な欧州の…しかもパリに暮らすことになった。
言葉も覚束ないし、頼りになるのは忍だけだ。
自然に忍に頼りがちになる自分が嫌だった。
忍には負担はかけたくない。
元はと言えば、自分の為に全てを投げ捨ててパリに来たのだ。

…それに忍は…。
百合子はそっと忍を盗み見る。
朝陽に輝くやや癖のある明るい髪色は、日本では好奇な目で見られがちだったが、ここフランスでは当たり前のように馴染んでいる。
象牙色と言うよりは白い陶器のような肌や、その琥珀色の美しい瞳も…。
日本人離れした美しい容姿は、ここでは差別されることなくすんなりと受け入れられ、忍は水を得た魚のように生き生きとした毎日を送っていた。
元々語学が堪能で数年前には一年程、パリにホテル経営を学ぶ為に留学もしていた忍は、何の苦労もなくここの生活に馴染んでいた。
かつて研修を受けていた名門ホテル、オテル・リッツでのコンシェルジュの仕事も直ぐに決まった。
オテル・リッツで忍は大層可愛がられていたようで大歓迎されたようだ。
日本人離れした忍の容姿は人種差別が激しいフランス人に何の違和感も与えずに接することが出来るのだろう。
毎日忙しそうだが、楽し気な忍を頼もしいとも思うし、ほっと安堵の気持ちでもいる。
…けれど…。
異国で浮くことなく、生活にも仕事にも馴染んだ忍と、子どもゆえの順応性の高さと生来の人懐っこい性格で言葉もあっという間に上達し、多くの友達も出来た司と…。
…それに比べて…私は…。

賑やかにフランス混じりで会話する忍と司の前にいると…不意に自分がぽつんと一人きりのような気がしてならないのだ…。
離れ小島にいるような孤独感と…例えようのない寂寥感を感じるのだ。

しかしそんな自分をきつく戒める。
…贅沢だわ。
あのまま日本にいたら私は司とも引き離され、意に染まぬ結婚をさせられていたというのに…。
今は密かに愛していた忍さんと一緒になり、司と三人何不自由もなく暮らせているというのに…。

百合子は朗らかに笑った。
「忍さん。ご出勤のお時間ですわ」

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