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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第2章 カルチェ・ラタン
玄関ホールまで忍を見送りに出る。
忍はジャケットに袖を通しながら、さり気なく言い添える。
「遊園地、どうしても気が進まないのなら、俺が行こうか?」
「…え?」
「百合子は大人しいから…フランスの気の強いマダム達は苦手だろう?日にちが分かっているなら休みを取るよ」
百合子は首を振る。
…そんなことで忍の手を煩わす自分が情けない。
「いいえ。大丈夫ですわ。本当に…私が引っ込み思案なだけなのです。皆様、良い方ばかりですから…」
忍は百合子の髪を優しく撫で、貌を近づける。
「無理してない?」
「ええ、もちろんです」
忍の手がそっと百合子の顎を持ち上げる。
「…愛しているよ、百合子…。だから笑って…。俺は君の笑顔が大好きだ」
百合子はふっと息を吐き、目を細めて笑いかける。
…こんなにも若く美しい男に愛され、優しくされているのに…寂しいだの孤独だの…許されない戯言だ…。
「…私も愛しています。忍さん…」
労わるようなくちづけが交わされる。
忍は百合子を強く抱きしめると、耳元で囁いた。
「今夜は早く帰るよ。…ゆっくり夜を過ごそう…」
官能的な薫りのする声だった。
百合子のミルクのように白く艶やかなうなじが朱に染まった。
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