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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第2章 カルチェ・ラタン
忍達の家はリュクサンブール公園の北側…様々なキャンパスが点在するパリ大学の東側にあった。
そこからセーヌ川に向かいしばらく歩くと見えてくるサン・ジェルマン・デ・プレ教会の向かい側にそのカフェはあった。
レ・ドゥ・マゴ…元々は中国の絹織物を扱う商店だったのをフランス人の店主が買い取り店を始めた。
その名残りの中国の人形がふたつ、店内に飾られている。
中国服を着た黒髪のその人形は、不思議なくらいにパリの街に馴染んでいる。
百合子は興味深げに店内を見回した。
東洋と西洋が融合した何とも魅惑的な情緒に満ちた雰囲気だ。
そんな百合子に優しくジュリアンは微笑んだ。
「ここは初めて?」
百合子は恥じらうように頷いた。
ジュリアンがエスコートして座らせてくれた席は、テラスに面していた。
開かれた硝子扉からは荘厳なサン・ジェルマン・デ・プレ教会が見える。
観光名所でもあるその教会の前には沢山の人々が行き交い、大層賑やかだ。
教会前の広場には、物売りの屋台が軒を連ねる。
絵葉書売りの屋台など土産物売りに混ざり、花売りの屋台、甘栗売りの屋台など生き生きとした匂いがその活気と華やかさに色を添える。
…色彩も薫りもなにもかも、東京とは違う…。
百合子は眼が覚めるような思いで、カフェの前の広場を眺めた。
「東京とは大分景色が違うよね。パリは多国籍の人々が多いから、風俗や食文化も様々だからね」
百合子の胸の内を読み取るかのように、ジュリアンは説明をしてくれた。
…そういえば…
と、百合子は辺りを見渡す。
西洋の服装の男女に混ざり、アラブ風の民族衣装を身に纏った女が子どもの手を取り歩いているのが見えた。
「パリ万博を経て異国の人々の移民もかなり増えたよ。
パリには昔からその自由と芸術と文化を求めて沢山の芸術家やその卵や…または政治的亡命者が渡ってきたいわば人種の坩堝だ。
…日本人も数多く留学しているしね。レオナール・フジタや永井荷風もそうだ。
ユリコもその仲間入りをしただけだよ」
百合子ははっと、ジュリアンを見上げる。
「…あの…もしかして、忍さんから何か…?」
ジュリアンはそのお伽話から抜け出てきたような美しい蒼い瞳に陽気な笑みを浮かべて首を傾げてみせた。
「…さあ、どうかな。武士に二言はない…て日本の諺だよね?
…ただ一つ言えることは…シノブはとてもユリコを愛しているということだ」
そこからセーヌ川に向かいしばらく歩くと見えてくるサン・ジェルマン・デ・プレ教会の向かい側にそのカフェはあった。
レ・ドゥ・マゴ…元々は中国の絹織物を扱う商店だったのをフランス人の店主が買い取り店を始めた。
その名残りの中国の人形がふたつ、店内に飾られている。
中国服を着た黒髪のその人形は、不思議なくらいにパリの街に馴染んでいる。
百合子は興味深げに店内を見回した。
東洋と西洋が融合した何とも魅惑的な情緒に満ちた雰囲気だ。
そんな百合子に優しくジュリアンは微笑んだ。
「ここは初めて?」
百合子は恥じらうように頷いた。
ジュリアンがエスコートして座らせてくれた席は、テラスに面していた。
開かれた硝子扉からは荘厳なサン・ジェルマン・デ・プレ教会が見える。
観光名所でもあるその教会の前には沢山の人々が行き交い、大層賑やかだ。
教会前の広場には、物売りの屋台が軒を連ねる。
絵葉書売りの屋台など土産物売りに混ざり、花売りの屋台、甘栗売りの屋台など生き生きとした匂いがその活気と華やかさに色を添える。
…色彩も薫りもなにもかも、東京とは違う…。
百合子は眼が覚めるような思いで、カフェの前の広場を眺めた。
「東京とは大分景色が違うよね。パリは多国籍の人々が多いから、風俗や食文化も様々だからね」
百合子の胸の内を読み取るかのように、ジュリアンは説明をしてくれた。
…そういえば…
と、百合子は辺りを見渡す。
西洋の服装の男女に混ざり、アラブ風の民族衣装を身に纏った女が子どもの手を取り歩いているのが見えた。
「パリ万博を経て異国の人々の移民もかなり増えたよ。
パリには昔からその自由と芸術と文化を求めて沢山の芸術家やその卵や…または政治的亡命者が渡ってきたいわば人種の坩堝だ。
…日本人も数多く留学しているしね。レオナール・フジタや永井荷風もそうだ。
ユリコもその仲間入りをしただけだよ」
百合子ははっと、ジュリアンを見上げる。
「…あの…もしかして、忍さんから何か…?」
ジュリアンはそのお伽話から抜け出てきたような美しい蒼い瞳に陽気な笑みを浮かべて首を傾げてみせた。
「…さあ、どうかな。武士に二言はない…て日本の諺だよね?
…ただ一つ言えることは…シノブはとてもユリコを愛しているということだ」