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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第1章 其の壱
今度は百合子は拒まなかった。
しかし、長い睫毛を伏せると小さな声で答えた。
「…ずっと、着物ばかり着ておりましたので…。あの…おかしくないですか…?」
忍の暖かな手が、優しく百合子の頬を撫でる。
「…凄く綺麗だ。…こんなに綺麗な女性は初めて見たよ…」
「…そんな…!」
忍に揶揄われたと思った百合子は抗議の意味を込めて忍を見上げた。
…思ったよりずっと近い距離から、忍は百合子を見つめていた。
義弟の華やかな貌が少しずつ近づき、百合子の白く形の良い顎を持ち上げようとする。
「…百合子…」
震える唇に忍の温かな吐息を感じた瞬間、百合子は身体を強張らせた。
…嫌な訳ではない…ただ…怖いのだ…。
ぎゅっと強く閉じられた瞼…。
小刻みに震える長い睫毛…。
忍の動きが止まり…やがて小さく息を吐くと、優しく肩を引き寄せ、百合子の白く美しい額にキスを落とした。
「…忍さ…ん…」
驚く百合子を宥めるように、そのまま逞しい胸に抱き込む。
「…大丈夫だよ、百合子…。君が怖がるようなことはしない…」
「…忍さん…私は…!」
…貴方が嫌なのではないの…。
…寧ろ…
百合子の心を見抜くように、忍は優しく笑った。
そして戯けた口調で和ませるように百合子の頬を軽く抓る。
「分かっているよ。…百合子は男の免疫がないものな」
そして、真剣な眼差しで続けた。
「百合子が俺を怖くなくなるまで、ゆっくり待つよ。
…だから怖がらないで」
「…忍さん…」
忍の言葉が嬉しくて、申し訳なくて涙ぐむ。
…怖いのは…貴方ではないのです…。
怖いのは…今の私に身に余るような幸せ…。
信じられないような、幸せ…。
…それが怖くて私は…私は…。
言葉を詰まらせた百合子に、忍は手を差し伸べる。
「さあ、そろそろ部屋に戻ろう。君がこれ以上冷えるといけない」
「…はい…」
おずおずと伸ばした華奢な白い手を、忍はしっかりと握りしめた。
二人は潮騒の音を背に、甲板を後にした。
しかし、長い睫毛を伏せると小さな声で答えた。
「…ずっと、着物ばかり着ておりましたので…。あの…おかしくないですか…?」
忍の暖かな手が、優しく百合子の頬を撫でる。
「…凄く綺麗だ。…こんなに綺麗な女性は初めて見たよ…」
「…そんな…!」
忍に揶揄われたと思った百合子は抗議の意味を込めて忍を見上げた。
…思ったよりずっと近い距離から、忍は百合子を見つめていた。
義弟の華やかな貌が少しずつ近づき、百合子の白く形の良い顎を持ち上げようとする。
「…百合子…」
震える唇に忍の温かな吐息を感じた瞬間、百合子は身体を強張らせた。
…嫌な訳ではない…ただ…怖いのだ…。
ぎゅっと強く閉じられた瞼…。
小刻みに震える長い睫毛…。
忍の動きが止まり…やがて小さく息を吐くと、優しく肩を引き寄せ、百合子の白く美しい額にキスを落とした。
「…忍さ…ん…」
驚く百合子を宥めるように、そのまま逞しい胸に抱き込む。
「…大丈夫だよ、百合子…。君が怖がるようなことはしない…」
「…忍さん…私は…!」
…貴方が嫌なのではないの…。
…寧ろ…
百合子の心を見抜くように、忍は優しく笑った。
そして戯けた口調で和ませるように百合子の頬を軽く抓る。
「分かっているよ。…百合子は男の免疫がないものな」
そして、真剣な眼差しで続けた。
「百合子が俺を怖くなくなるまで、ゆっくり待つよ。
…だから怖がらないで」
「…忍さん…」
忍の言葉が嬉しくて、申し訳なくて涙ぐむ。
…怖いのは…貴方ではないのです…。
怖いのは…今の私に身に余るような幸せ…。
信じられないような、幸せ…。
…それが怖くて私は…私は…。
言葉を詰まらせた百合子に、忍は手を差し伸べる。
「さあ、そろそろ部屋に戻ろう。君がこれ以上冷えるといけない」
「…はい…」
おずおずと伸ばした華奢な白い手を、忍はしっかりと握りしめた。
二人は潮騒の音を背に、甲板を後にした。