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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第2章 カルチェ・ラタン
二人が和やかにお喋りを始めた時、百合子の背後から華やかな声が聞こえた。
「まあ、ジュリアン。今日も違う美しいレディをお連れになっているのね。…あら、今日は東洋の美しい女性?お珍しいこと。
貴方のもうひとつのお国の方かしら」

思わず振り返ったそこには、すらりと背の高く金髪の美しい髪を優雅な巻き毛に結い上げ、小さな緑色のボンネットを被り、濃い葡萄酒色の華やかなドレスを見に纏った息を飲むほどに美しい女性が佇んでいた。
「マルグリット!」
ジュリアンが少し驚いたように声を上げる。
「紹介して下さらない?」
その女性は百合子を見て、微笑んだ。
エメラルドのように美しい翠の瞳が煌めいた。
ジュリアンが百合子を紹介する。
「ユリコ、僕の幼馴染のマルグリット・ド・シュヴァリエ男爵夫人だ。
マルグリット、こちらはユリコ・カザマ。
僕の日本の友人のマダムで日本から来たばかりなんだ。
今、パリを案内していた」
「初めまして、マダム・カザマ。パリはいかが?」
百合子は立ち上がり、差し出された白いレースの手袋を嵌めた手を遠慮勝ちに握りしめた。
「初めまして、シュヴァリエ男爵夫人。…とても美しい街ですわ…」
マルグリットは百合子のたどたどしいフランス語を好意的に微笑み、頷く。
「美しいけれど、毒な街でもあるわ。…貴女のように純粋でお綺麗な方は十分お気をつけになって」
「マルグリット…。ユリコを脅さないでくれ。ようやくパリの街に連れ出せたというのに」
ジュリアンは困ったように溜息を吐いた。
「あら、ごめんなさい。そうね、ジュリアンのような完璧なナイトが付いていたら大丈夫ね。
マダム・カザマ、いつでもジュリアンと私の屋敷にいらしてね。毎日毎日退屈で死んでしまいそうにしているから。蝶々夫人のお国のお話を聞きたいわ」

ジュリアンは形の良い眉を上げた。
「やれやれ、君は相変わらずだ。
…あれが君の新しい恋人?」
流し目をくれる。
カフェの入り口で、マルグリットを人待ち顔で見つめるハンサムだが色悪風な若者が佇んでいた。
マルグリットは手にした扇の陰で小さく笑い、白い蝶のようにひらひらと手を振った。
「もう行くわ。彼はとても嫉妬深いの。イタリア人のオペラ歌手なのよ。今度オペラ座にも出演するの」
マルグリットは自分が話したいことだけ話すと
…ではご機嫌よう…と、唄うように軽やかに去って行ったのだった。
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