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愛のシンフォニー
第11章 愛の遺産
そういえば戦国の世では正室に子ができない場合、側室に生ませた子を正室の子として育てていくのはよくあることだったとはしゃぐ赤ちゃんを見て貴美子は思った。

貴美子は自分がここにいた痕跡が一切残っていないことを念入りに確認すると赤ちゃんを抱いて立ち去った。

警察が来たら自分は間違いなくこのふたりの殺害への関与を疑われるだろう。説明できないことが多すぎてどうにもならない。

まずはこの赤ちゃんのことだって説明がつかない。死の間際まで徳造とこの女は交わっていたのだろうが、ヤッてすぐに生まれたなんて現実離れした話が理解されるわけもない。

そもそもどうしてここに来たかを訊かれたらあの恐ろしい怪物のことを話さなければならない。過去の忌まわしい記憶、自分が怪物を生み出したことも。
忌まわしい記憶まで話したところで怪物なんていう現実離れしたことが理解されるはずもない。

貴美子と徳造の関係・・恋人。
恋人にしては徳造の本名も知らない。そんな恋人があるかということになればカネで若い男を買っていたことも露見してしまう。

とにかく自分はこの件には一切無関係ということにしなければならない。

とはいえ、最愛の徳造をあのままにしておくのは忍びない。

貴美子は廃校舎からかなり離れた人気のない場所にある公衆電話から男っぽい声色で警察に電話をかけて廃校舎に人が死んでいることを伝えた。

警察によって廃校舎で死んでいる徳造と美樹の死体は発見された。貴美子の思惑どおりそこに貴美子が立ち寄ったことは発覚せずに済んだ。

警察は通報してきた人を探そうとしたが、人気はなく、防犯カメラの類もなく、人が死んでるとだけ伝えたので会話が至極短く探すのは困難となった。
受話器の指紋等も採取したが警察が把握している指紋ではなかった。もっとも貴美子は手袋をしていたので別人の指紋であるが・・。

こうして貴美子が廃校舎にいたことは発覚することなく徳造と美樹は警察に引き取られることとなった。

警察で司法解剖が行われようとしたが、徳造と美樹はしっかりと結合して離すことができない。
警察は無理に離して解剖することは諦めた。

警察が解剖を諦めたのは徳造たちの体の信じられないような傷にもあった。
まるで巨大な獣にでもえぐられたような人間の仕業とはとても思えないような傷。

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