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女王のレッスン
第1章 ■最初のレッスン
2つ席を空けてスツールに座ると、すかさずバーテンダーが「ご注文は?」と聞きに来る。
「私ジンジャーエール」
「そっか、遥香ちゃん飲めないのか。じゃあそれ2つ」
「お待ち下さい」
注文が済むと柊平はポケットからスマホを取り出した。
「さっきの?」
「うん。一応見ておこうかと」
隣から私も画面を覗き込む。
「そういや店の読み方もわかんないや」
「691でロックワンだって。あ、この人だね」
イベントページに小さな写真と簡易プロフィール。拡大して見た。
真摯な面持ちで誰かを後手に縛る横顔。底深さが伺える野性的な瞳。そのくせ柔らかそうにウェーブした首にかかる程度の髪。
『千堂瑛二、34歳、緊縛師・フォトグラファー』
「フォトグラファー?」
「緊縛した女性を撮影してそういう雑誌に載せたりしてるらしい」
「ああ、そういう……」
「それにしてもさっきの子、凄かったね」
「うん。がっつり見てたでしょ」
「う……ごめん。でもあれは見ちゃうよ……」
頭に手を当てて柊平はバツの悪い顔をする。
でもこの空間には、あれ以上の人達が存在する訳で。
「お待たせしました」
目の前にグラスが2つ置かれ、私達はそれぞれを手にした。
「コンペ優秀賞おめでとう」
「あ、ありがとう」
グラスを合わせる。昨日の真緒との会話を思い出して、お祝いだけでも口にした。
柊平本人からは何も聞いていないままだった。
「昨日は打ち上げだったんだよね?」
「そう。手伝ってくれた人達と指導してくれたリーダー達と」
「頑張ったねぇ。昨日真緒とも少し話してたんだよ。有望だねって」
「いやいや……でも結構目は掛けて貰ってる。みんなモチベーション高いし刺激的で」
「ふうん、凄いなぁ。うちはあんまり毎日大きく変わんないからなー」
ああ、結局仕事の話をしてしまう。折角こんな場所に来ているのに。だけど最近それ以外の話題がとても薄い気がしてる。
これが変わるきっかけになったらいいと、ぼんやりと思った。