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女王のレッスン
第3章 ■奉仕のセンセイ

そう言うと彼女は嵌めた軍手にベビーオイルを垂らして擦り込み、縄を扱いていった。

「拭いたらオイルを含ませた軍手でもう一度扱くと更に燃えカスや煤が取れるのよ。ほら」

広げた軍手には言葉通り細かな粒粒がついている。

「縛る時に傷付けたり汚さない為ね」
「大変ですね……元々なめしてあるものはないんですか?」
「あるけど折角なら自分たちで手を掛けた縄で抱いてあげたいから」

「ねぇ?」と小首を傾げて結衣子さんが向こうを窺うと、ふたりとも無言で、でも微かに微笑んだ。

「結局サディストはマゾヒストの奴隷だ。愛してなかったらこんな事しない」
「あ……愛してる、の?」
「ああ、Sに徹するならその瞬間は本気で愛してるよ。でなきゃ相手の心を殺しかねない」
「そうだね、全部自分に返ってくるから自然と湧いてくる」
「正に慈愛よねぇ。全て許したくなっちゃうもの」

サディズムを持った彼らが穏やかな表情で愛を語る。
珍妙で、でも快い気持ちがする。
でもその一方で心なしか不思議な湿度を3人に覚えた。

「……なんか、凄い、なぁ……」

ぽつりと漏れた言葉は、羨望か、憧れか。
所詮私はマゾ傾向だから、彼らのように出来るイメージが湧いてこない。
自信を持てと言われても、全く湧いてもこない。
手の中の縄を転がしながら、これに抱かれる幸せな人を想った。

「何を言ってる。お前だって気付いたろ。愛していなきゃ抱けないって」
「え……でもそれは結局……」
「その気付きは大きな一歩だよ。結果はしょうがない。糧にしろって言っただろ」

焼き終わった一本を私の方に置いて、瑛二さんはぶっきらぼうに言う。
言い方はあれでも、なんか優しい。胸にほんわりしたものが浮かんだ。

「……それとも忘れたか」
「忘れてません!」

前言撤回。やっぱり厳しい。
でもそれを見ながら稜くんと結衣子さんはクスクスと笑う。

縄が繋ぐ、絆?
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