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女王のレッスン
第3章 ■奉仕のセンセイ
「これ、渡しとく」
稜くんが広げた手の中には鍵。
「何の鍵?」
隣に座り摘み上げて問う。
「8 Knotの裏口。結衣子さん必ずしもいるとは限らないから念の為。わかる所に置いておくから連絡しないでも大丈夫って」
「入る場所わからないよ?」
「行き方後で連絡しとく」
「わかった」
頷いてジャケットのポケットにそれを収めた。
「結衣子さんは?」
「控え室。彼女が縛られるのを見るのは初めて?」
「私がしたのを除けばそう。稜くんは?」
「店で練習台になってたりはするけどこういう場は久し振りかな……。君が縛ったのは2人で来た時?」
「うん。『縛ってみて』って言われて」
「なんか言われた?」
「真っ直ぐだけど慈愛と支配力と自信が足りないって」
思い掛けず落胆した口調になってしまい、稜くんは片方の目をすがめて「ふうん」と言った。
「始めてひと月でしょ?無理もない。彼女は縛れる人にはみんな最初にさせるし」
「したの?」
「うん」
「何言われた?」
「……矛盾してるのに随分ソリッドねって」
「ソリッド……って固体……?」
言葉の意味深さに首を傾げ、稜くんを覗き込んだ。
彼は視線を思い出すように一度上に向け、それはこちらを向けられることなくカメラに落ちる。
「……リアリストとロマンティスト、衝動と平静、相反するものが混ざらず独立してる、らしいよ」
「へぇ……聞いて意味わかったの?」
「まあ、多少の自覚はあったかな。そう言い当てられたのは初めてだったけど」
気怠げな息を吐いて、稜くんは後ろに両手をついた。
視線は無人のステージを映すモニターのまま、そこに誰かを見ているようにも見える。