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女王のレッスン
第3章 ■奉仕のセンセイ
背の縄が垂れ下がるフックに掛かり、引かれて彼女は立ち上がる。
潤んだ瞳。陶酔した表情。背徳感に満ちているのにそれでも彼女は洗練されたまま、凛とした姿勢を崩さない。
私達オーディエンスを一瞬でも支配した女王としてのプライドなのか、はたまた、
『私がいないとあなたは存在意義を失うでしょう』と言えるだけの自信、なのか。
しかし彼もそれに応える。
髪の毛の一本まで彼は彼女を彼女であると把握しているようで、視線の動きひとつさえも彼は彼女を彼女であると把握しているようで。
両足それぞれにも巻かれた縄、別のフックに掛かり、上半身を折られた彼女の身体が脚一本で立つ。
だけどそれもすぐに宙に浮いた。
「……っ!」
誰一人動かないその中で彼女だけがゆらり、と揺れる。それだけで、時が止まっていないことを悟る。ステージ上の彼は目を細めてその姿を愛おしそうに見ていた。
彼には今、彼女が最後の力で羽ばたいているようにでも見えているのだろうか。彼が追い求めた生命力溢れる蝶のように。
追い求めたそれを捕らえて、縄で射止めたその瞬間の高揚が、彼にあの顔をさせるのだろうか。
そして彼は彼女の正面に跪き、揺れる彼女の頬を引き寄せる。長い髪で隠れたその横顔を観衆に見せつけて。
目を伏せて花の蜜を吸い取る為に差し出された彼女のその舌を、彼の唇が受け止めた。
「あぁ……」
自分の声か、彼女の声か、わからなくなる。
彼は今、彼が彼女に望んだ通り、最上級の奉仕によって綺麗な彼女を生み出し
彼女は今、彼女が彼に望んだ通り、世界で一番美しい。
彼は彼女から静かに離れ、カメラを手にして戻ってきた。
シャッター音とストロボに彼女は時折反応し、動かぬ身体を尚も魅せつける。
やがて満足したのか、彼はカメラをステージに置いた。
宙に揺れていたのはほんの数十秒、だろうか。彼はまた彼女を地上に戻し、ゆっくりと丁寧に彼女を解放する。
結び目の一つ一つ、通した縄の一本一本。何度も何度も抱いて、慎重に。
そうやって最後の腕を解放して、彼は彼女をステージに優しく横たえた。
全身で息をする彼女の頭をその脚で受け止めると、スポットライトが音もなく消える。
沈黙が訪れ、拍手が湧いて、瞬いた瞬間、涙が私の頬を伝った。