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女王のレッスン
第4章 ■仕事のケンガク
「なんとなく、ルカにマゾとサドを行き来する結衣子さんを見せたくなった」
「なんで……」
「君もそういう道を進む気なんでしょ?」
「……ゆくゆくは」
「これは両立の証明。マゾだろうとサドだろうと緊縛するのには関係ない」
「だから、なんでそれを稜くんが……」
「君が不安背負い込んでそうに見えたんだよね。アトリエでも、昨日も」
急になんの前触れもなく図星を突かれて言葉に詰まる。
人に言われて認めることへの抵抗感を僅かに感じながら否定も肯定も出来ずにいると、同じ目線の高さで彼はゆっくりと瞬きをした。
「その顔は当たり?」
「……そんな、わかりやすかった?」
「引っ掛かった程度。しかも比較対象があのふたりだ。そういう沼に嵌ったら抜けられなくなる」
「沼って……」
「あんな風にならなきゃ、なんて思う必要はないってこと。彼女でさえこうやって時々素の自身のマゾヒズムに浸るんだ。矛盾なんて恐れなくていい」
私の不安の元凶を見透かしたように稜くんは優しげに笑った。
昨夜湧き起こる拍手の中で頭をもたげたそれらが蘇って、足元を見る。
漠然と『綺麗』と思ってた世界に踏み込んだその一歩の先を躊躇って、歩き出せない気がして。
急に自我が芽生えたみたいだ。やっぱりこれまで選択してきたように見えてたのは錯覚で、結局ただ流されていたんじゃないかと。
「……慰めてる?」
「いや、ただのエール。多分俺と君は近い立場だろうと思ってね」
「そんな馬鹿な。全然違うよ、だって――」
「俺は結衣子さんの女王の品格に惹かれて本気でフェティシズムに接しようと決めたから」
意外な言葉が並んで思わず稜くんを見た。近い立場なんて、ある訳ないだろうに。
彼は視線を交わらせるとふ、と軽く笑い、物柔らかな視線を床に落としながら続ける。