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女王のレッスン
第4章 ■仕事のケンガク
「瑛二さんは、まだわかるけど……」
「結衣子さんも大概厳しいよ。縛って、縛らせて、琴線に触れなければどんな美人でも他店の人気者でも帰される。パスしてもあの通り人を巻き込んで振り回す。それって芯がない人間には凄く疲れるんだ。その特性を受け入れた人しかこの店には今いない」
「そんな。緊縛だってテストじゃないって言ったのに」
「瑛二さんが連れてきた時点で一次審査通過って判断したか、それこそ警戒を解くための嘘でしょ。まあ雇う訳じゃないし真意はわかんないけど」
稜くんが肩を竦めて嘆息する。
だけど考えたら当然だ。彼女だって一介の経営者だし、ボランティアで出来るはずがない。
いくら彼女が奉仕精神に溢れていようとも。
「……わかった?エールって言った意味」
数瞬要して無言で頷いた。稜くんが軽く目を伏せて笑った。
「だから安心してなんでも教わるといいよ。あのふたりでも、カナや俺だっていい。先輩な分答えられることはある」
「わかったけど、どうして稜くん結衣子さんと?だって結衣子さんは……」
瑛二さんと、と続けそうになって、やっぱ言い淀んで口を閉ざした。
だけど稜くんは涼やかに顔を上げ、小上がりの奥のドアに目をやった。
「その話はまたね。結衣子さん、戻ってきちゃう」
時間切れ、らしい。
「……わかった」
消化不良をまたひとつ抱えるも、彼のエールは少なからず嬉しくて。
やり方は強引だけどいい勉強と思い込もうとした。
「稜くん」
縄を手に立ち上がった彼を呼ぶ。
返事もせず私を見遣る平静なその顔がさっきのサディストと同一人物なのが信じがたい。
「その……ありがとう。ちょっと、安心した」
「そう。余計なお世話かと思ったけど、よかった」
稜くんはそう言ってシューズを引き寄せ足を入れる。
腕時計をちらりと見た。時間は2時。瑛二さんの所に行くのにも十分余裕だ。
服のポケットから鍵を出し、履き終えた稜くんに差し出した。
「はい、鍵」
「ん。この後同行だよね。身体持つ?」
「それこそ余計なお世話だし……」
「違いない。ごめんね、俺暫く無理だから満でも呼び出すといい」
「だぁから!瑛二さんのこと言えないくらいゲスい!」