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女王のレッスン
第4章 ■仕事のケンガク
「……でもちょっとわかる」
「そうか?」
「うん。覚えておきたい瞬間ってほんと一瞬で終わっちゃうから」
「そうなんだよな。だから撮るんだけど」
「今日の人も?」
「ああ。そうだ、デート中も撮ってくれると助かる」
「え?カメラとかド素人だよ。いいの?」
「最近のコンデジもスマホも性能はいいからな」
そう言って大きなカメラの隣に置いてあった黒いコンデジを私に手渡した。
「機械弱かったりするか?」
「このくらいなら問題ないと思うけど」
電源を入れて画面に室内を映す。ズームにしたりシャッターボタンも押してみた。
カウンターキッチン。縄のある有孔ボード。そしてそのまま瑛二さん。
「……なんだよ」
困ったように笑った顔が撮れた。
「うん、平気」
「ならいい。コーヒー淹れるからその間に通話チェックさせてくれ」
「わかった」
トントンと手際よく指示が飛んで、やらなきゃいけないことがあることに安堵する。
携帯とイヤホンを繋いで無料通話アプリからコーヒー豆をセットする瑛二さんを呼び出した。
通話ボタンが押されたらしい。イヤホンから豆を挽く音をBGMに「聞こえる?」と低い声が流れる。
「聞こえる」
「なんだ、お前のイヤホンもマイク付きか。なら会話もいけるな」
「え?瑛二さんどうやって聞いてるの?」
「Bluetoothのマイクとワイヤレスイヤホン。目立たないからな。いいなこれ、重宝しそうだ」
耳元でクッと笑われると息遣いまで聞こえてまるで本当に傍で声を聞いてる気がしてしまった。
これがお散歩中ずっと聞こえて来るのか。さっきといいこの後といい濃厚な1日になりそうな予感。
「切るね」とひと言告げて通話を切った。