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女王のレッスン
第4章 ■仕事のケンガク
「準備は終わり。あとはこれ飲みながら依頼人を待とう」
「はーい」
携帯とコンデジをバッグにしまい、それを持ってカウンターに行く。
喫茶店に入ったみたいな香りを吸い込んでスツールに座った。
「昨日は普通に帰れたか?」
ペーパーフィルタにお湯を注ぎながら瑛二さんに聞かれ、顔を上げる。
「うん。特に何もなく」
「仕事の話が来なきゃ飯でもって思ってたんだけどな」
「気にしないで。依頼?」
「ポルノ映画の緊縛依頼っつーか」
「映画?凄くない!?」
「多分?断ったけど」
「なんで?だってそれって認められたってことじゃ……」
「世界観が違うんだよな。撮影旅行とかドキュメンタリなら考えるだろうが」
飄々と言い切るその口調に、見開いた目の力が抜けた。
名誉にもなるであろう大きな仕事をこともなげに蹴るなんて、と思ったけど、瑛二さんならそうかもしれない。
追い求めるものが違うなら、そこにわざわざ適応なんてしないはずだ。
「写真がいいんだ?」
「俺にとってはな。ついでに相手も素人がいい。元から綺麗な女が綺麗になってもつまらん」
「ふうん。結衣子さん、綺麗だと思うのに」
「今でこそな。出会った頃なんか世界中に敵がいるみたいな顔してたんだ」
「そうなの?信じらんない」
「ああ。自分の性的嗜好の行き場をなくすとこうなるのかなって思った」
懐かしむような眼差しをして、カップに注いだコーヒーを私の前に出す。
「……ありがと」
「まあ、あそこまで開き直った挙句S転して女王にまでなるとは思わなかったけどな」
隣のスツールに腰掛けて笑う瑛二さんは、随分と嬉しそうだ。
自分が変えたであろう彼女が翅を広げていく様をずっと見てきたのだろうから。
さっきの光景が頭を過ぎる。私が言えたことじゃないけど、『どうして?』って考えてしまう。
結衣子さんも、稜くんだってそうだ。そうなるに至った理由を彼は語らなかった。
どちらの想いも読めない。