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女王のレッスン
第4章 ■仕事のケンガク

「天気がいいな。デートにはちょうどいい」

イヤホンから直接聞こえてくる瑛二さんの声に、チカさんはマイクで拾えるぎりぎりの声で「はい」と答えた。
公園を吹き抜ける秋風が頬を撫でていく。言われた通り確かにいい天気だった。
ジョギングする人、犬の散歩をする人、仲よさげな親子、笑い合うカップル、調子の外れたストリートミュージシャン。
たくさんの人がいる中私の10m程先を行く彼らは手を繋ぎ、どこからどう見ても恋人同士のよう。

「あまり俯くな。誰かに知られるぞ」

彼女の耳元に口を寄せて、楽しそうな声音で彼は告げる。
言われた彼女はやや落としていた肩を上げ、声もなく隣の男を見上げて逸らした。
股に通された縄は容赦なく彼女を責め続けているはずだ。

「まあまあ歩いたか。カフェにでも行こうか」
「カフェ……」
「あそこにテーブルがある」

瑛二さんが指差した先には外に張り出した広いデッキ上に並ぶパラソル付きのテーブル。

「いいか?ルカ。先入るからカメラ準備しとけ」
「わかった」

ふたりが遊歩道から逸れ、私も続く。中途半端な時間なせいか、店内の客はまばらだった。
彼らが選んだ席はデッキの端、チカさんを店内側に座らせ、瑛二さんはその斜め向かいに座る。
私はそれが横から見える席に座ってカメラを出した。
チカさんを見遣るもその表情は平静を装っている。当然といえば当然だけど、水とメニューを持った店員の登場には少し動揺を見せた。
私も同じように受け取り中を見る。ケーキもいいな、なんて思ってた所にイヤホンから「食べたい物は?」と聞こえてきた。
向こうのことかと視線を向けると、どちらに対しても言ってるみたいだ。

「……」
「まあ、喉を通らないか」

彼女は口を動かしたけどマイクが拾わない。距離と声量のせいかもしれない。

「私食べていい?ケーキ。あと彼女の声が入らなくなった」
「了解」

これもどちらに対してもだ。瑛二さんはマイクを外し、テーブルに置いた。
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