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女王のレッスン
第5章 ■努力のタマモノ
「簡単」
「言っただろ。でも凄く大事なことだ。これがちゃんとしてないと危険に繋がることもある」
「わかった。これも本結びみたいな呼び方あるの?」
「8の字結び」
瑛二さんはそう言って、背後の結衣子さんを見る。
名前に引っ掛かりを感じて、私も一緒になって彼女を見上げた。
「つまりエイトノットね。ここの由来」
ちょっとだけ照れくさそうに結衣子さんが笑う。
「自分の名前もちょっとだけ掛けてるけど、ちゃんと結んだら外れないから、あなたの一番大事にしてる部分を大切にしますって想いも含んでる」
「もっとわかりやすくしろって言ったんだけどな。聞かなくて」
「登山とか船とかのロープの結び方にも使われるのよ。HPに時々迷子が来るわね」
手元の結び目を思わず見つめる。
永遠にも似たその形。なんかもう、いっそ愛しか感じなくなる。
「客待ってんだろ、女王サマ。片付けて勝手に飲んで帰るよ」
「そうですよ、結衣子さん。行って下さい」
「そう?ありがとう。じゃあお言葉に甘えるわ。見送り出来ないけどごめんね」
小さく手を振って、結衣子さんは賑わいの中へ入って行った。
瑛二さんがその後ろ姿を追った後、束ねた縄を手に立ち上がる。
「土曜にまた同行可能な依頼あるけど、どうする?」
「依頼?行けるよ。今度はどんなの?」
続いて立ち上がり、軽い気持ちで聞いた。
「変態夫婦のお手伝い」
凶暴に笑いながら猛禽類がもたらしたその依頼をきっかけに
私はどんどん、自分の『無知』を思い知って行くことになるだなんて、この時考えもしていなかった。