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女王のレッスン
第5章 ■努力のタマモノ
瑛二さんはエンジンを掛けて、サイドブレーキに手を掛けるもその手を思案するように見つめていた。
私は小首を傾げて彼を覗く。と、やがてこちらを見て、スマホを手にして操作をする。
「まあ、駄目元で。ちょっと持ってろ。車出す」
スピーカーにされたそれが電子音を奏で、差し出した私の手に載った。
画面には『結衣子』の表示。電話をするらしい。車が走り始め、駐車場を抜ける頃に繋がった。
「はいはーい」
「今いいか?」
「どうぞ。もう車なのね。終わったの?遥香ちゃんは」
「終わった。一緒だ。お前、緊縛中の感情の推移って言語化出来るか?」
結衣子さんの言葉を遮ったその発言に、彼女は黙った。
そりゃそうだ。突飛過ぎる。
「いいよ、瑛二さん。自分でちゃんと――」
「これに関しては経験者に聞くのが一番早い。俺が縛った中で最も長い間秘めて飼い慣らしてそれも駄目で一気に昇華させた人間だ」
「でも」
「遥香ちゃん平気よ、無茶振り慣れてるから。瑛二くんの苦手分野だものねぇ」
「煩えな、質問に答えてくれ。行き先が変わる」
「マカロンが食べたい気分だわ、とっても」
「ユイお前また」
「こないだのモデルの対価も合算してそれね。遥香ちゃんも食べたくない?」
「食べたいです」
「おいっ――」
「決まり。お店からちょっと離れた場所にショップがあるの、よろしくね」
ぷつっと電話が切れ、電子音が残る。名前のその先にあの微笑みが見えた。
「……加担しやがって」
ぼそりと言って、瑛二さんは私の手からスマホを取る。
不機嫌半分、もう半分は、
「しなくたって多分引かないよ、結衣子さん」
「知ってるよ、しょうがねえな……」
嬉しいのだろうか。サディストの弱み。彼らは所詮、マゾヒストの奴隷。
「なんだ、店の名前。前言ってたナントカっつーのの場所調べといてくれ」
ぶっきらぼうに言い捨てて、瑛二さんは国道を8 Knotへ向けて曲がった。