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女王のレッスン
第5章 ■努力のタマモノ
「いらっしゃい。待ってたわ」
16時を過ぎた頃、私達はお店に着いた。
無言で瑛二さんが差し出した袋に、結衣子さんは無邪気に喜び、「ありがとう、嬉しい」と破顔させる。
「値段まで聞いてねえぞ」
「言ってないもの、調べないのが悪いのよ」
「砂糖の塊がどうやったらこんな」
「うわあ、宝石みたい。遥香ちゃんが選んでくれたの?」
「はい、全種類と好きそうなのをいくつか」
「ありがとう、みんなも喜ぶわぁ」
「お前本当に人の話聞かねえな……」
カウンターのスツールに座って瑛二さんはこめかみに手を当てた。
「聞いたからあなたはここにいるんでしょう?」
不敵な女王がそれを横目に得意げに笑う。
孤高の緊縛師は鼻を鳴らして溜息を吐いた。
「結衣子さん、お湯湧いた」
奥から稜くんの声。結衣子さんがパッと顔を上げ、カウンターに箱を置いてそちらへ駆けていく。「紅茶ね、ニルギリ」と言うのが聞こえた。
私も瑛二さんの隣のスツールに腰を下ろす。途中でコンビニに寄って下着も替えたから気持ち悪さはもうない。
箱の中に整然と並ぶ砂糖の塊と称されたそれは、ショーケースにあった時と変わらぬ輝きを放っていて、少なからずときめいた。
「ふたりとも紅茶でいいの?」
稜くんが姿を見せ、私たちに尋ねる。瑛二さんは肩を竦め、私も「うん」と頷いた。
「じゃあソファ行ってて。淹れたら持ってく」
「ああ、わかった」
「あと縄も、だって」
「はぁ?聞くだけでいいんだぞ」
「曰く感情は液体、らしいよ」
小首を傾げながら稜くんが言うと、瑛二さんは息を吐いてスツールを降り、壁の縄を数束手にする。
「ご奉仕ばっかだな、今日は」
私のそれも含んでのことだろうか。台詞の割には楽しそうに見えるけれど。
「そんな過激な依頼だったっけ?」
「色々あんだよ。鋏よろしく」
ぼやくように言って、そのままカウンターの横をスタスタと通り過ぎ、L字の向こうへ消えた。