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女王のレッスン
第5章 ■努力のタマモノ
「結局経験人数増やしただけね。プライドが邪魔して言えないくせに勝手に傷付いてったのよ、馬鹿みたいに。誰か気付いてって。大学入っても一緒。特定の人も作らなくなった。ネットの調教師とか色々流行り出したけど、それに飛び込む勇気もない。で、21の梅雨の時期、フェティッシュバーで緊縛ショーをやるっていうのを見つけてね。行ってみようって決意したの」
もしや、と瑛二さんを見る。稜くんも。
ふたり分の視線に彼は顔を上げたけど、すぐに隣の彼女に向けられた。
「その通り、緊縛師は当時駆け出しの瑛二くんね。勿論何も知らなかったけど、私は誰でも良かったの。行き場をなくしていたから。そこで彼に縛られる女性を見た。ショーの間は夢中だったわ。その女性になりたくて仕方なかった。余程荒々しい視線だったみたいね、終わって瑛二くんに声をかけられた」
伏せがちだった彼女の目が開き、瑛二さんを見た。深い哀しみと寂しさを瞳に宿す、強く険しい顔。
「『お前どれだけ渇望してる?』」
瑛二さんがそれに応えて当時の彼女に問う。
「『普通の人間なんてこの世からみんな消えてしまえばいいと思うくらい』」
「『穏やかじゃねえな』」
「『穏やかじゃないよ。何年も』」
「『俺でよければ縛ろうか?』」
「『本当に出来るの?』」
「『見てただろ。あの通りだ』」
「『技量は見た。でも、器量は知らない』」
今と違う口調、怖いとすら思う気迫。行き場をなくした彼女の嗜好が牙を剥いていた。
「『生意気な口利く奴だな』」
「『なら黙らせてよ。もう、疲れた……』」
その牙がまるで全部己を攻撃しているみたいで、痛々しさに泣きそうになる。
「見かねたのね、瑛二くん。『20分だけ待て』って言われて店の外に連れ出されてそのままホテルに向かったの。部屋に入ってやっとお互い名乗って、ふた言目に言われたのが」
「『綺麗にしてやるから脱げ、結衣子』」