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女王のレッスン
第5章 ■努力のタマモノ
諦めを滲ませて稜くんは薄く笑い首を軽く傾げた。
その時、カーテンがさっと開き、瑛二さんがまた無表情のまま姿を見せた。
軽く乱れた髪が艶かしくて、事後の匂いを隠しもしない。
「結衣子さんシャワー?」
「ああ」
「瑛二さんも浴びてきなよ」
「そうする」
稜くんの問い掛けに短く答え、スツールに置かれた結衣子さんの服と下着を手にしてすぐに戻っていった。
「珍しい。余裕なさそう」
「あんな風になるんだ」
「興味深いね。独占欲かな。彼女を俺たちに見せちゃったから」
「『ないと言ったら嘘になる』って言ってたのに……」
「かっこつけだよ。夢追い人だもん」
半ば呆れたように言って立ち上がり、散乱する縄を束ね始める。
抱えていた脚を下ろして、私も倣った。
「瑛二さんに対しては、稜くんはどういう感情があるの?」
「仕事に関しては尊敬してるよ。生き方そのものにも憧れるし羨ましくもあるけど、他は複雑」
「結衣子さん絡みで?」
「それに限らず。ありがとう」
纏め上げた4本を置いて手早くマットを拭き、稜くんはソファに戻る。
私はその向かい、マットに座り、冷め切った紅茶を自分のカップに注いで鮮やかなピンクのマカロンを口に運んだ。
皮肉なくらい甘くて、美味しい。
「ひとりじゃ、足りないから?」
頭で考えてたことと一緒に喉に流し込んで、口から出たのは、ちょっと前からの疑問。
「何が?」
「結衣子さんを抱く人が。瑛二さんだけじゃ足りないから、稜くんも抱くの?」
私の言葉に、暫く無表情だった彼の顔がやっと緩んだ。
「……そんな細かいこと考えてないよ。抱きたい抱かれたいでしてるだけ」
「わかんないな……。みんなそこに所謂好きとか付き合いたいとか結婚したいとかはないんでしょ?」
今まで私が接してきた『普通』の、ポジティブだと思い込んできた願望が
彼らの間では『異質』のようで、そこに未来を見い出せない。
私の言葉が意外だったのか、稜くんは目を丸くしたけど、すぐに小さく首を振った。