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女王のレッスン
第5章 ■努力のタマモノ
「誰も何も言わないね」
「この先も、続くの?どこまで――」
「さあ。誰かが『無理』だと言うまでかな」
「関係性にまでセーフワード?そんなプレイみたいに言わないでよ……」
「必要なんだよ、同意の元とは言えね。『別れよう』で終わる普通の彼氏彼女とどう違う?」
「そうかもしれないけどだからって」
「言えることはひとつだ。俺たちサディストは、マゾヒストな彼女の奴隷ってこと」
特に拘りのない風に言ってのけ、彼は手振りで『それだけ』と告げる。
気温は高くないのに湿度だけはある、梅雨の季節のような3人の関係。
それでいいの?本当に?
そういうもの、それも含めてのプレイ、と言われてしまったらおしまいだけど、でも。
そこまで考えて、不意に、意識の端にあった綻びのようなものにあれ、と気付く。
彼らのそれは、『プレイ』なのだろうか、と。『抱く』のは別だというのは彼らの共通認識だ。
あの日、アトリエで、そう聞いた。さっきもそうだ。プレイ中でも抱いてる時でも、と。
「稜くん」
「何?」
「結衣子さんのことは、『プレイ』と思ってしてないんだね」
無意識のうちに図ったのかもしれないし、偶然だったのかもしれないけど、その言葉の瞬間は、稜くんが息を吐ききった時。
彼が一番、油断をしていた瞬間。
「っ……」
小さく息を飲む音がして、冷ややかだった目が警戒を見せた後、ポーカーフェイスに舞い戻る。
踏み込みすぎた、かも。背中にヒヤリとしたものが伝う。だけど、吐いた言葉はなかったことに出来ない。
引いちゃ駄目だ、と目を逸らさなかった。
「彼女は俺の雇い主だ。半端にプレイにするくらいならちゃんと抱くよ」
揺るぎなく返されて、立てた牙を呆気なく抜かれた気分になる。
「……うん。そっか。そうだよね」
さっき聞いた『面白くない』も含めて、もしかしたら、案外、なんて一瞬でも考えたのが馬鹿みたいだ。少し嬉しかったのに。
張り詰めた緊張、肩から息をして解く。
またカーテンが開いて、私達の意識はそちらに向いた。今度は結衣子さん、後ろに続けて瑛二さん。
「おかえりなさい」
稜くんが言って、私もかぶせるように一緒に言った。
「……ただいま」
私たちに応えて結衣子さんが笑ってくれたことに胸を撫で下ろし、私も久し振りに笑えた気がした。