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女王のレッスン
第5章 ■努力のタマモノ
瑛二さんと稜くんがふたり同時に声を上げて笑う。
稜くんは小春ちゃんの腕を前に寄せて、梯子のように縛っている途中で、私はカナちゃんの両脚を屈曲固定で縛っている最中だった。
「へえ、ここいつの間に着付け教室になったんだ」
「まあユイ教えられるし」
「着物の着衣緊縛も好きよ」
3人は思い思いのことを言いながら、私の今日の昼の出来事を笑う。
瑛二さんは結衣子さんの足の指先に施した、拘束を目的としない飾り縄を解きながら「気を遣うけどな」と呟いた。
「でも着付けは緊縛に似てる。何度も身体に手を回して紐や帯を巻くし、手捌きも近い」
「結衣子さん着付けも出来るんですか?」
「一応ね。さて、そろそろきりのいい所で片付けてね」
ブーツに脚を入れながら結衣子さんが声を掛け、今日のそれはお開きになる。終わって片付けたらカウンターでおすすめの一杯を貰って帰るのが定番になりつつあった。
稜くんが裏に行き、私がスツールに座ると瑛二さんに立ったまま「ルカ」と声を掛けられた。
「今度飾り縄教えるよ」
「なんで?まだ梯子も吊りもやってないのに」
「気が変わった。そっちは稜もユイも出来るし、お前器用だから見てみたい」
そういうものだろうか。とは言え悪い気はしなかった。「わかった」と頷くと、瑛二さんは頬を緩め、ジャケットを羽織る。
「帰るの?」
「ああ。昨日撮った女王様の動画編集済んでないからな」
「そっか。HP用の」
「そ。じゃあな」
ふたりの顔を見てくこともなく、瑛二さんはドアの向こうへ消えた。
そんなに慌ただしいのもなんだか珍しい。ドアを暫く見てカウンターに向き直ると、稜くんが顔を出す。
「瑛二さん帰ったよ。昨日の動画編集だって」
「早。急ぎじゃないのに」
呟くように言いながら稜くんはウイスキーと水を一杯ずつ出してくれた。目の前に置かれたボトルにはグレンリベットと書いてある。
昨日は早速例の、結衣子さんの世界の作り方を撮影した。
相手の感情に細い糸を結んで弾いて絡め取っていくような彼女の世界の創造はやっぱり圧倒的。
瑛二さんのスタイルとは異なるし、どちらも真似出来るものだとは思えなかった。
グラスに口を当てるとほのかに甘い香り。含むと爽やかで癖もない。
「どう?」
「美味しいね。ウイスキーのイメージ変わる」
「良かった。ちょっと元気になった?」